レシピに込められたシリアの人々の物語 キッチンはそのとき故郷に

有料記事多事奏論

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記者コラム 「多事奏論」 編集委員・長沢美津子

 料理に故郷はあっても国境はない。

 どこに暮らしていても、愛着のある料理を作る時、キッチンはその人の故郷、家になる。レシピブックを読んで考えた。

 書名は「スマック シリアからのレシピと物語」。オランダ発でイギリスなどでも出版されたシリアの家庭料理書で、スマックとは酸味のある赤紫色のスパイスの名前だ。シリアの3文字に灰色のがれきを思い浮かべてページを開くと、豊かな色彩に圧倒される。食卓は多幸感に満ちている。

 古代文明からの食文化をブームでくくるのは乱暴だけれど、シリアを含む西アジア、アラブの料理世界は、エキゾチックで健康的な食事として国際的な注目を集めている。「フムス(ひよこ豆のペースト)」が代表的だろうか。豆やナッツ、野菜を使いこなして、現代の菜食志向にも支持される。人の移動と交流が盛んになった時代が背景にある。壁や分断を生む同じ場所でも食欲はしたたかで、胃袋の連帯は進む。

 話を戻すと、「スマック」のレシピは、世界のどの都市のキッチンでも作れそうな、親切さで書かれていた。スパイスや調味料もネットで見つけることができる。

 著者のアナス・アタッシさん…

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