日韓の最大の懸案となっている徴用工問題をめぐり、韓国政府が示した「解決策」は、賠償や韓国の財団への資金拠出、新たな謝罪には応じられないという日本の主張にそった内容だった。主張の背景には岸田文雄首相の強い指示があった。
「二度と逆戻りできないように、あいまいな要素を残さないように。粘り強く交渉してくれ」。首相は韓国側との協議について報告を受けるたび、この指示を繰り返した。
1965年に結んだ日韓請求権協定では、請求権に関する問題は「完全かつ最終的に解決」され、「いかなる主張もできない」と定められている。このため、日本政府は、日本企業への賠償を命じた韓国大法院(最高裁)の判決は受け入れられず、日本企業の資産を売却して賠償に充てる「現金化」は避けなければならないと訴えた。
政権の事情もあった。自民党内の基盤が盤石ではない首相にとって、韓国への不信感が根強い保守派から「妥協した」との批判が強まると政権運営に影響しかねない。
そして、首相周辺は首相の心境をこう解説した。「首相には2015年から続く特別な思いがあった」
首相は第2次安倍政権で、外相を務めた。15年12月、自らソウルを訪問し、慰安婦問題の日韓合意を発表した。日韓関係は改善に向かったが、文在寅(ムンジェイン)政権の誕生によって暗転。「この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」との合意は「空文化」した。首相には「国と国との約束を守ってもらわないといけない」との強い思いがあった。
それだけに首相は、徴用工問題の解決に前向きな尹錫悦(ユンソンニョル)大統領にも慎重な姿勢を崩さなかった。
日本政府内から出始めた声
昨年9月、韓国側は訪問先の…
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- 【解説】
やはり首脳同士が直接顔を合わせて語り合うというのは大きな意味がある。その形式がたとえ「懇談」でも「会談」であっても――。 昨年9月、ニューヨークでの対面は、韓国政府のフライング気味の発表もあり混乱したが、尹錫悦大統領の周辺は、とにかく
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