津波避難「自分が逃げるので精いっぱい」 高齢化で共助に限界も

近藤咲子 大久保泰
[PR]

 【千葉】東日本大震災で犠牲になった人の多くは津波に巻き込まれた。太平洋側で大きな津波が予想される日本海溝・千島海溝地震で銚子市は県内で唯一、津波対策を特に強化すべき「特別強化地域」に指定された。続けて起きるかも知れない「後発地震」への注意喚起も始まった。ただ、自力で避難が難しい人たちがいる。それを地域の人たちで助け合う「共助」が、住民の高齢化で限界に近づいている。(近藤咲子、大久保泰)

 東日本大震災で最大3・9メートル(推定)の津波が襲った銚子市。市の南側に位置し、観光名所の「屛風ケ浦」がある名洗町にも3メートル以上の津波が来た。同町では市内で最多の6棟が全壊(流出を含む)するなど家屋18棟が被害を受けた。

 町内会の運営に長年関わる栗原和雄さん(82)は、「津波で海面が沸騰したようにボコボコと渦巻く」のを目撃した。「当時は地震イコール津波という意識がなくて、揺れた直後はみんなで海辺の家に集まって波を見ていた。消防団にせかされて逃げた」という。

 震災後、町内会では毎年5、11月に津波避難訓練を実施するなどして、地域住民の危機意識を育ててきた。しかし、高齢化が加速する集落では「共助」の限界も見えてきている。

 町内には2014年に完成した避難路がある。毎年の訓練には約50人が参加し、標高約25メートルの「銚子ドーバーライン」につながる避難路を歩き、経路や所要時間などを確認する。だが、スロープと階段が混ざる全長約170メートルの避難路は「脚が悪くて歩けない」と、訓練参加をあきらめる人も増えてきている。

 名洗町には119世帯240人が住み、町内会副会長の多田富夫さん(76)によると、高齢化率は「ほぼ100%」。すでに避難に手助けが必要な高齢者もいる。市内全体でも、自力での避難が難しい高齢者ら要支援者は、届け出があるだけで約600人。多田さんは「正直、皆自分が逃げるので精いっぱい。これからさらに年をとるのにどうすればいいのか」と頭を悩ませる。

 市では市内の町内会と協力し、災害時に自力での避難が難しい人を支援する防災ボランティアを事前に決めておくなど、個別の避難計画を立てる取り組みを始めた。昨年には愛宕町第4町内会と連携して、そこに住む85歳以上の9人の避難計画を作成した。

 第4町内会では新たに防災ボランティアを募り、名乗りを上げた約30人を要支援者1人について2人ずつ割り振った。同12月には地震による火事や住宅倒壊を想定した避難訓練も実施。一緒に歩いたりボランティアの運転する車に乗せたりして、要支援者を一時避難場所まで誘導した。

 町内会長の実川勇さん(71)は、「町内は半分近くが65歳以上で一人暮らしの人も多い。事前の計画は必要だと思った」と話す。市では、要支援者の自宅の間取りや夜寝ている部屋、離れて暮らす家族の緊急連絡先なども事前に把握しておき、有事に備える。

 実川さんは「支援を必要とする高齢者は他にもたくさんおり、今後さらに増える。防災ボランティアも50~70代と高齢者も多く、本当はもっと若い人の人手がほしい」と話す。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【本日23:59まで!】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら