「海洋放出 大局みて判断を」 伊沢史朗・双葉町長

聞き手・福地慶太郎
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 ――昨夏に避難指示が解除された。受け止めは。

 「復興のスタートになったという程度でしかない。われわれは(福島県内を除染して出た土や廃棄物が搬入されている)中間貯蔵施設の受け入れや、福島第一原発の処理水の問題という重荷を背負ってきた。そのマイナスから、ゼロに戻せたか、あるいは、まだマイナスかもしれない」

 ――町内の居住者は約60人だが、どう評価する。

 「評価できるほどの数だとは思っていない。ただ、震災後約11年半、人が住んでいなかった場所に人が住んでいる事実はものすごいこと。居住者60人のうち、27人は移住者だ」

 ――移住者の数を、どうとらえているか。

 「移住がなければ、町は存続できない。帰還する町民と移住者が手を取り合って復興していこうという構想を掲げてきたが、想像以上に移住者が来ている」

 「先行して避難指示解除した地区は、雇用創出のために企業誘致をした。そこに進出した企業の社員が住民票を移している。その決意に期待している」

 ――町民の帰還者は、どう増やしていくか。

 「双葉の現状を正直に発信し、理解してもらう努力を続けたい。町民を対象にした今年度の意向調査では『戻りたい』が前年度から約2ポイント増の13・6%、『戻らないと決めている』は約4ポイント減の56・1%だった。微々たるものだが、良い数字が出た。頑張ろうという気持ちになる」

 ――昨夏、住民や専門家ら多様な立場の人たちが対話し、福島第一原発(1F)の将来像を考える「1F地域塾」が始まった。原発事故を後世に伝えるため、原発を遺構として残すよう求める声も出ている。

 「私は単純に、廃炉イコール更地でしょと思っていたが、事故の記憶を後世に伝えることはすごく大切。慎重に進めていく必要があるよな、と思い直した」

 ――こういった対話の場をどう思うか。

 「すごく良い取り組みだ。意見が違うからと否定せず、議論はどんどんするべきだ。いろんな人の意見を聞く場が少ないと感じていたので、ありがたい」

 ――処理水の海洋放出が今春から夏ごろに始まる。国は昨年12月にテレビCMや新聞広告を出し、情報発信に取り組んでいる。

 「あのCMは、逆に心配をあおるんじゃないかと、私はみている。はっきり安全と言わずにモヤッとした言い方をしている。黒いのかな、白いのかなって、考えさせられるのは違うでしょう。国は、安全性に問題のないものを流すのだとしっかり説明するべきだ」

 「(汚染水を処理した水をためている)タンクでの保管継続を求めた地方議会もある。自分たちの土地を提供せずに『くさいもの、あぶないものは全部、(福島第一原発がある)双葉町、大熊町に』という、根底にある考え方を、私は批判している」

 ――双葉町と大熊町に保管すればいいという意識があるように見える、と。

 「タンクの建設費は1基1億円。それだけお金をかけて、タンクもいずれは放射性廃棄物になる。廃棄物が増えることも、わかっているんですかと言いたい」

 「大局を見て判断してほしい。(タンクでの保管継続により結果的に)廃棄物を増やすのに賛成するって、ナンセンスだと思わない? 海洋放出は『悪』で、反対は『善』って、そうじゃないでしょう」(聞き手・福地慶太郎

     ◇

 双葉町は、2020年3月に北東部の一部地域で避難指示が解除された。町はこの地域を産業拠点などと位置づけ、これまでに24社と立地協定を結んだ。22年8月には、帰還困難区域のうち、インフラ整備や除染を進めた町中心部の「特定復興再生拠点区域」で避難指示が解除され、約11年半ぶりに町内に人が住めるようになった。区域内では9月に役場新庁舎が業務を始め、10月には新築した町営住宅で入居がスタート。

 これまでに避難指示が解除された地区は町面積の約15%で、震災時は4685人が住んでいたが、今年1月末時点の居住者は約60人にとどまる。

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