ロシアに届け、ヒロシマから「命奪うな」の声 ウクライナから報告も

核といのちを考える

興野優平 岡田将平 松尾葉奈 黒田陸離
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 命を奪うな――。ロシアによるウクライナ侵攻開始から1年の24日、被爆地・広島で、被爆者が、宗教者が、政治リーダーが戦闘の即時終結を訴えた。侵攻の現実に向き合うウクライナからは切実な声も届いた。

 「なぜこんなに命が粗末にされるのか。ただちに停戦せよ、という声を大きく上げることだ」

 広島市中区の本通商店街で、県原爆被害者団体協議会の佐久間邦彦理事長が行き交う人々に訴えた。原水爆禁止県協議会(県原水協)などとともに「ロシアはウクライナから撤退せよ」と声を張り上げた。

 近くの原爆ドーム前には、仏教の住職やキリスト教の牧師ら十数人の姿があった。仏教式の法要や聖書の朗読などで犠牲者を追悼し、平和を願った。

 三次市の西善寺住職、小武正教さん(65)らが呼びかけ、侵攻開始後、毎月24日に集まってきた。この日、小武さんは「もっとも大切なことはこれ以上、市民や両軍の兵士の命が奪われないために、停戦となること。奪われた命は帰ってこない」と語った。

 湯崎英彦知事は「ロシアが幾度も核兵器の使用を示唆していることは、被爆地広島の知事として断じて容認できない」とのコメントを出した。松井一実広島市長は「現実の脅威を解決するためには、理想を語るだけでは十分ではないが、理想を掲げて示すことが凄惨(せいさん)を極めるこの戦争を一刻も早く終焉(しゅうえん)させるために不可欠だ」と記者団に語った。「侵攻が長期化し、戦禍により罪のない多くの市民の命や日常が奪われ、苦難が続いていることに胸を痛めている」とも強調。ロシアのプーチン大統領が米ロ間の「新戦略兵器削減条約」(新START)の履行停止を表明したことに触れ、「世界の緊張と分断を一層深めさせないためには、ロシアや中国も、被爆者が望む『核のない世界』という理想を追求してもらいたい」と話した。(興野優平、岡田将平)

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 広島文化学園大(同市安佐南区)の学生たちは、ウクライナ中西部のジトーミル州にある学校2校の生徒たちとオンラインでつなぎ、侵攻で様変わりした生活を聞いた。昨年3月に校舎が破壊されたままというビクトリヤ・リッシュクさん(15)は「戦争が全てを変えた。戦争の前の恐怖のない人生を忘れてしまった」と話した。

 ウクライナからは13~16歳の生徒約20人が参加。ダリア・グテリさん(14)の学校は、爆撃の危険があるため通学できず、リモート授業が続いている。「友達の顔を画面でしか見られない。多くの友達は外国にいて会えない。早く戦争が終わってほしい」と訴えた。

 広島側から「今ほしいものは」との質問が出ると、ヤーナ・メルニュチュクさん(14)は「25日が誕生日なので、警報がない誕生日を過ごしたい」と答えた。

 同大2年の菅本美紅さんは「戦争で何より苦しんでいるのは子どもだと身にしみて感じた。復興を経験した広島としてできることは何でもしたい」と話した。(松尾葉奈)

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 訪日中のバルカン半島にあるアルバニアのラマ首相は、妻子と平和記念公園広島市中区)を訪れ、原爆死没者慰霊碑に献花した。平和記念資料館を見学し、「何千ページの歴史書よりも価値がある。私たち家族にとって、訪日で最も意義がある時間だった」と記者団に話した。

 ウクライナ侵攻に関しては、「多くの人が1週間で(ウクライナの降伏で)終わると思っていた戦争が、ウクライナの人々の努力や民主主義国家の支えで続いている。ウクライナを侵略できないのは明らかで、ロシアに勝利はない」と述べた。ラマ首相は22日、岸田文雄首相と首相官邸で会談している。(黒田陸離)

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