「お米を食べて」とローマ教皇に手紙 棚田の過疎集落に起きた奇跡

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川辺真改

 能登半島の付け根にある石川県羽咋市。富山との県境に位置する神子原(みこはら)地区は、人口300人あまりで高齢化率は58%を超える。18年前、この過疎の街を活気づけようと、1人の公務員が大勝負に出た。「ローマ教皇に地元の米を食べてもらう」。バチカン市国に手紙を送った。

 2005年、元羽咋市職員の高野誠鮮(じょうせん)さん(67)は、農林水産課で農業の補助金事業を担当していた。ある日、住民への説明のため、山や森林に囲まれた神子原地区を訪ねた。

 「80や90になっても田んぼさせるつもりか」

 住民は今後も農業を続けていくことへの不安を口にした。農家の多くはこの時すでに70歳を超えていた。補助金をもらっても、もう体が動かないというのだ。加えて、農業による収入の低さも課題だった。

 説明会の後、坂を上る高齢女性がいた。腰を折ってうつむきながら手押し車を押して畑に向かっていた。その姿を見て「根本的に街を変えないといけない」と決意した。

影響力ある人に食べてもらうには?

 高野さんは地区にブランド品を作ろうと考えた。目を付けたのは米だった。標高461メートルの碁石(ごいし)ケ峰から清流が直接棚田に注ぐ。昼夜の寒暖差が大きいことで、小粒だが歯ごたえが良くてうまいと評判だった。

 味を裏付けるため、人工衛星で上空から稲に含まれるたんぱく質などの成分値を分析した。数値の良い稲を育てた農家には講習を開いてもらい、地区全体で栽培のノウハウを共有した。

 味の良い「神子原米」をどう認知させるか――。高野さんは秘策を考えた。「影響力の大きい人が食べればブランド力も上がる」

 天皇陛下に神子原米を食べてもらうよう、宮内庁の担当者と交渉した。だが、許可は下りなかった。

 次にヒントを得たのが地名だ。神子原は「神の子の住む原っぱ」と書く。神の子=イエス・キリスト。キリスト教で影響力がある人物といえば――ローマ教皇宛てに手紙を書いた。

 「イタリア半島を逆さまにすれば能登半島と形がそっくりです」と関わりを説明し、こう問いかけた。

 「あなたに米を召し上がってもらえる可能性は、1%でもないでしょうか」

■駐日ローマ教皇庁大使館から…

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この記事を書いた人
川辺真改
政治部|自民党担当
専門・関心分野
国内政治、社会福祉、スポーツ