それぞれの最終楽章・死ねる幸せ(1)
僧侶 松山照紀さん
私は兵庫県姫路にある不徹寺の第25代住職で、着任7年目。もうすぐ還暦を迎える尼僧です。ここは約300年間、代々女性によって受け継がれてきた古刹(こさつ)。今は「現代の女の人たちの駆け込み寺」を目指していて、毎日いろんな人が訪ねてきます。
ある時、仏具屋さんからの紹介でやってきたのは、娘さんが自死したお母さんでした。何の予兆もなく逝ってしまったといい、口を開くなり「私はもう死にたいんです。死んで娘に会いたい」と言います。子どもの姿を見るだけで涙が出てくる、生きるために働いているが何をしているのかわからない。死にたい、死にたい、死にたい……。
2週間に1度は姿を見せて、毎回約2時間、泣きながら悲しみを繰り返し訴えます。私は一切否定せずに、たまに「つらいよね。生きる力なんか出ないよね」と言うぐらい。かつて修行先で行き倒れていたところを保護した寺猫「織部(おりべ)」が時折、そっと近づいて慰めます。
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1年半ほど経ったころ、ここ…