塩尻の図書館「本の寺子屋」11年目 初の参加2千人超

安田琢典
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 活字離れに歯止めをかけようと、図書館や著者、出版社などが協力して本の魅力を発信する長野県塩尻市立図書館の取り組み「信州しおじり 本の寺子屋」が11年目を迎えた。作家ら著名な文化人を招いた講演会や企画展など多彩で地道な取り組みは、徐々に市民に浸透。2022年度は初めて参加者が2千人を超え、着実にその裾野を広げている。

 本の寺子屋は12年度にスタートした。モデルとなった鳥取県米子市のNPO法人「本の学校」の活動に、安曇野市に住む河出書房新社「文芸」の元編集長・長田洋一さんが共感。老舗出版社「筑摩書房」の創業者・古田晁(あきら)の生誕地である塩尻市の図書館に持ちかけたことがきっかけだった。

 本の寺子屋は「本の可能性を考える」を合言葉に毎年15回前後、作家や俳優、ジャーナリスト芸術家、研究者らを講師に講演会を開く。また、毎年数回、絵画や写真などの企画展を開いている。

 招かれてきたのはいずれも著名な文化人。22年度は作家の島田雅彦さんや、金子みすゞ記念館長の矢崎節夫さん、法政大前総長の田中優子さんらが招かれた。ノンフィクション作家の後藤正治さんや東京大名誉教授の上野千鶴子さんらも登壇したこともある。俳優の小泉今日子さんが招かれた昨年7月の講演会には、最多の958人が集まった。

 さらに本の寺子屋は、地元の図書館司書にとって研鑽(けんさん)の場としての役割も果たす。15年度から開催している子ども向けの寺子屋もあわせ、上條史生館長は「図書館員が学ぶ場所があれば図書館が充実し、地域の読書環境はさらに充実する。子どもにもアプローチすることで、本を好きになってもらうきっかけを作りたかった」とねらいを話す。

 10年あまり前に始まった活動の芽を育んだのは、人口約6万6千人の同市で、もともと高い市民の「読書熱」だった。10年7月に、JR塩尻駅前にある市市民交流センター「えんぱーく」内に開館した図書館の蔵書数は約41万冊。年間の利用者は40万人を超えることが多く、コロナ禍だった21年度でも約32万人に達した。

 8カ所ある分館などを含めた同図書館の貸出冊数は、21年度に約72万冊だった。市民1人あたりの年間貸出冊数は10冊を超え、県内19市の市立図書館としては群を抜く多さという。

 本の寺子屋の運営や企画を任されて4年目の藤牧晃平主任は、来館者が一時的に伸び悩んだコロナ禍を経て、「例えば小説好きのシニア世代や若い子育て世代など、それぞれの世代の心に『刺さる』内容を話せる講師を厳選するようになった」と話す。

 新年度の本の寺子屋の内容は、近く同図書館のホームページで公表される予定。上條館長は「地方都市ではなかなか話を聞けないような人を今後も招くことで、地方発の文化の創造と出版文化の未来に寄与していきたい」と寺子屋のさらなる充実をめざしている。(安田琢典)

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