第9回国際課題を市民目線で議論 G7広島サミットまで3カ月
5月19~21日に広島市で主要7カ国首脳会議(G7サミット)が開催されるのを機に、市民たちによる「サミット」も開かれる。核兵器を含む国際的な課題を世界の人が議論し、広島からも声を上げる。G7サミットまで3カ月となり、市民の動きも本格化している。
「人道性や安全保障、持続可能性などが課題になるなか、このイベントが私たちの相乗効果を生み出す出発点になることを願っています」
1月24日夜、国内外から約200人がオンラインで集まり、こうした呼びかけのもと国際的な課題について議論した。G7サミットに向けて、市民の立場から首脳への政策提言など行う「C7」のキックオフイベントだ。
「C」は「Civil(市民の)」の頭文字で、NGOなど世界各地の人が議論する枠組みになっている。気候変動や経済などテーマごとにワーキンググループ(WG)が設けられているが、G7サミットの被爆地・広島での開催を踏まえ、新たに「核軍縮WG」が設けられた。
日本でC7の中心を担う「国際協力NGOセンター」(東京)の堀内葵さんはその狙いについて、ロシアのウクライナ侵攻を挙げ、「核による威嚇が世界を覆うなか、市民社会の視点からメッセージを強く出す必要があると考えた」と話す。
1月の議論では「究極の目標は核兵器廃絶だが、現時点では、どう核兵器使用のリスクを減らせるか言及しなければ」「核の先制不使用について検討してはどうか」「核兵器に頼らない安全保障として(特定の地域内で核兵器生産・保有などを禁止する)非核兵器地帯を設けていくのは生産的な取り組みだ」などの意見があった。日本や米国、イタリアといったG7の国だけではなく、インドネシアやパキスタンなどからの参加者もいた。
「C7サミット」は4月に東京で開催。WGを経てまとまった政策提言はそこで発表される。
広島市でも4月15~17日、「核のない、誰ひとり取り残さない、持続可能な社会」をテーマに「市民サミット(仮称)」が開かれる。
NPO法人の「ひろしまNPOセンター」事務局長の松原裕樹さんや「ANT-Hiroshima」理事長の渡部朋子さんらが呼びかけ人となり、昨年から準備を始めた。
首脳らに向けて共同宣言を出すほか、核兵器や環境問題といったさまざまな分野で活動する人たちが垣根を越えてつながることも目指す。SDGsの分科会やユースサミットの開催を希望する声もあるという。
2月18日には実行委員会のメンバーを募集するためのオンライン説明会があった。
松原さんは「私たち市民の声を政治に反映してほしいし、私たちの活動を推進していくために(G7)サミットを生かす機会をつくりたい」と呼びかけた。「いまの社会課題は世界で起こっていることと、地域で起こっていることとがつながっている」と述べ、「市民サミット」の意義を語った。
市民団体「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」(HANWA)も、世界の核被害者が集まるイベントを5月に企画する。
顧問の森滝春子さん(84)は核実験やウラン鉱山採掘による被害を訴える人たちと交流してきた。G7サミットの参加国は、核保有国と、その抑止力に頼る「核の傘」の下にある国だと指摘。市民の活動について「核被害を前面に押し出し、首脳らと世界にアピールしていくべきではないか」と訴える。そして、G7サミットにも「核戦争の危機回避や核被害者救援のために広島で何をするのか」と問いかける。
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5月のサミット開幕に先立ち、海外の関係者が続々と県内を訪れている。世界に向け被爆地・ヒロシマから発信が始まっている。
1月19日には英国のアン=マリー・トレビリアン・インド太平洋担当大臣が広島市を訪れ、松井一実市長と面会した。トレビリアン氏は、1月にあった岸田文雄首相とスナク首相との会談に言及。「サミットに核軍縮の話を乗せたい」という話題が出たことを伝え、「英国として、G7での核軍縮をサポートしたいと思っている」と述べた。
トレビリアン氏の父は、核政策を専門とするジャーナリストだったという。「父は原爆に衝撃を受け、そうした父を持つ私も広島に関心が高かった。個人的に追悼の意を表したかった」。トレビリアン氏は、平和記念資料館で被爆者の体験を聞き、原爆死没者慰霊碑に献花。ウクライナ侵攻を踏まえ、「核使用の危機が迫っている。英国は核問題を熱心にやりたいと考えている」と強調した。
1月27日にはオーストリアなど中欧・東欧の4カ国の記者が外務省の招きで県庁を訪問。湯崎英彦知事は記者たちのインタビューを受け、サミットについて「核兵器廃絶につながるメッセージが出されることを期待している」と答えた。
記者らは平和記念資料館や平和記念公園を訪問。市立基町高校の生徒が被爆者の体験を元に描く「原爆の絵」の取り組みや、被爆遺構を巡るサイクリングツアーについても取材した。
ポーランドの記者は湯崎知事へのインタビュー後に「サミットが核兵器廃絶のスタートになれば歴史的なことで、そうなって欲しい」と話した。