第16回文明崩壊から資本主義を救うには 岩井克人さんが説く「会社」の根源
株主のために利益を稼ぐ組織、それが株式会社だと広く考えられてきました。しかし、格差の拡大、鈍い成長、異常気象といった世界の危機は、株主中心の資本主義のあり方を見直すよう、私たちに迫っています。
会社は本来、誰のため、何のためにあるのか。株式会社という存在について根源的な考察を重ねてきた経済学者の岩井克人さんが語る、「ポンコツな資本主義」の修理法。
――株主中心の資本主義への反発が強まっています。
「米国型の株主資本主義が大きな問題を抱えていることはリーマン・ショックであらわになったが、その後も大きくは変わりませんでした。しかし、格差や気候の問題が深刻化したことで、資本主義が変質を迫られているのが誰の目にも明らかになりました。今のままでは文明は滅びてしまいます」
――米国では財界トップが「株主だけでなく社会全体に尽くす」と言い出しました。
「ビジネスエリートの危機感の表れだが、具体的に行動を変えたかは怪しい。コロナ禍では労働者のクビを切って株主利益を守りました。ただ、建前であったとしても、従来の株主主権論が間違いだという宣言が、財界主流派から出てきた意味は大きい」
フリードマンの「誤り」
――株主資本主義の理論的支柱となった米経済学者ミルトン・フリードマンは半世紀前、「会社の唯一の社会的責任は株主のために利益を最大化すること」と説きました。
「会社は社会に配慮せよという動きが当時もありました。だがフリードマンによれば、会社資産は株主のものでしかなく、経営者が環境や雇用のために利益を犠牲にするのは、株主の財産の盗みにほかならない。そうした考えが経済学や財界の主流をなしてきました」
――最近は、短期的な利益を超えて環境・社会・ガバナンス(ESG)を重視する考え方も広がっています。
「ブランド価値を高めたり、優秀な従業員を集めたりするためならば、最終的な目的は株主利益の最大化であり、フリードマンの手のひらの上で踊っているに過ぎません」
「短期的にはもちろん、長期的にも株主の利益にならなかったとしても、それぞれの目的を追求できるのが本来の株式会社です。会社は株主の金もうけの道具に過ぎず、会社の資産はすべて株主様のものだというフリードマンの主張は、理論的に完全な誤りです」
「会社の目的は多様でいい」 それが資本主義の強さ
――どういうことでしょう。
「会社は『法人』だからです…
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- 【解説】
「資本主義NEXT」企画の担当デスクをしつつ、こちらのインタビューの聞き手を務めました。今年1月、企業統治を問う「資本主義NEXT 会社は誰のために」のシリーズを15回お届けしましたが、さらに関連するロングインタビューを計10本余り、今日
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