「一箱本棚」オーナー制のつながる図書館「偶然の関わりこそ大事」

林瞬
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 豊かな自然が残る茨城県石岡市の八郷地区に、「一箱本棚」のオーナーを募って個性を反映した蔵書を並べる私設図書館がつくられる。企画した女性は、本を通じて利用者との出会いが生まれ、人と人がつながれる空間になればと願う。

 同市柿岡の「つながる図書館」は3月25日のオープンを予定している。かつて歯科医院だった平屋約140平方メートルを住民の手で大規模改装している最中だ。

 館内には、縦32センチ、横50センチの本棚を50箱ほど置く。その本棚を月2千円で貸し出す。本以外の自分で作った作品を置いても構わない。利用者は最初に300円の登録料を払えば、本を館内や自宅で読める。

 図書館の構想を中心になって進めているのは、同市在住のアーティスト平方亜弥子さん(52)だ。東京で歌手やテレビのナレーションの活動をしていたが、有機農業に興味を持って学ぶうちに八郷地区が気に入り、地域通貨の運営などに携わった。2019年には家族で引っ越した。

 しかし、20年から新型コロナウイルスが流行し、人との関わりが減った。オンライン化が進み、目的と一直線に結ばれることが増えた。世代や趣味、好みが同じ人同士のつながりは増えたが、地域の中で暮らしながら、違う属性の人と出会う機会が少なくなったとも感じていた。

 「いま世の中はお互いを認め合うのではなく、攻撃し合って分断されてしまっているように見える。だからこそ、『偶然の関わり』が大事だと思った」

 そのとき目にしたのが、静岡県焼津市の商店街に開館した一箱本棚オーナー制の私設図書館「みんなの図書館さんかく」のニュースだった。「こういう施設なら、みんなが来てくれるかも」

 同じ頃、21年に廃業した歯科医師の家族が「空き家の医院を何か地域のための施設にできないか」と考えていることを知った。「人と人がつながれる図書館に」と提案すると、賃貸を承諾してくれた。

 友人や地域住民と話し合い、図書スペースの他にもカフェやキッチン、リモートワークに使えるスペース、約20畳の集会室を備え、ワークショップやイベントも開けるようにする。

 改装工事では、地元の工務店などが割引を申し出てくれたほか、週末には住民らがボランティアとして集まり、解体や修繕などを手伝ってくれている。

 1月下旬の週末、子供から大人まで約25人の住民が出入りしていた。近くに住む八木麻梨子さん(44)と長男の柚咲(ゆうさく)さん(11)は、壁を板張りにする作業を手伝った。麻梨子さんは「近所にはママ友以外で話ができる人は少ない。ふらっと来て、交流が持てる場所ができるのは本当にうれしい」と話す。

 平方さんは言う。「本棚は人の個性が出る。地域住民だけでなく、観光客などいろんな人が集まる場所にしたい。何かが起こる気がしてわくわくしています」

 建築資材や備品の購入資金に充てるため、230万円を目標にクラウドファンディングサイト(https://rescuex.jp/project/38702別ウインドウで開きます)で寄付を募っている。26日まで。(林瞬)

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