現場は追い詰められ、鬼になるかも 科学と計画、標準化の落とし穴

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聞き手・浜田陽太郎
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 「科学的介護」を目指す動きが本格化している。現場からデータを集めて分析し、予防や自立に効果があるサービスを普及させる狙いだ。テクノロジー活用で「より少ない人手でも回る現場」を目指す動きも同時進行する。これで本当に「介護の質」は良くなるのか。高齢者が暮らす場に身を置き、現場から「介護の深み」を発信してきた村瀬孝生さんに聞いた。

 1964年生まれ。東北福祉大卒。福岡市で定員26人の特養「よりあいの森」と二つの「宅老所」の統括所長を務める。近著に「シンクロと自由」。

トイレに行きたがる、尿量センサーは未反応…どうする?

 ――より少ない介護職員でサービスの質向上を目指すとして、現場から集めたデータを使って高齢者の自立支援に取り組む科学的介護を国が進めています。

 「科学が必要な場合もあるでしょう。でも、データやエビデンス重視のロジックが浸透すると、『見たいもの』しか見ない現場になる。それをおそれます」

 ――具体的には。

 「たとえば、膀胱(ぼうこう)内の尿量を測る機器があります。それをお年寄りに装着し、尿がたまったとセンサーが知らせてきたタイミングでトイレへ誘導できれば、オムツを使わないで済むようになるかもしれません」

 「でも、お年寄りは、尿がたまっていなくてもトイレに行きたがることがよくあります。もし正確に尿量を感知できるセンサーが反応しなければ、そのお年寄りをトイレに連れて行くでしょうか」

 ――尿は出ないのに、トイレに連れて行く。そんなムダな労力は省けば現場は楽になり、生産性も上がるのでは。

 「そうでしょうか。僕らの現…

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    大村美香
    (朝日新聞記者=食と農)
    2023年2月7日14時50分 投稿
    【視点】

    とても感じることの多い記事です。ここで語られているまなざしは、家事などケアにつながる生活の営みにも必要とされているように思います。後段、村瀬さんの「人間の能力の限界を文明の利器で補完し拡張し続けることで、本当に幸せが得られたのか。立ち止まっ

    …続きを読む