日本の人権状況は「後進国レベル」 辻村みよ子さんが背景を解説

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聞き手 編集委員・豊秀一

 日本政府はこれまで、国連機関から長年にわたって選択的夫婦別姓制度の実現や死刑廃止に向けた検討など様々な勧告を受けてきたにもかかわらず、政治は真剣に向き合おうとしていないように見える。問題はどこにあるのか、人権の歴史と理論に詳しい辻村みよ子・東北大学名誉教授(憲法)に話を聞いた。

 ――人権状況をどうご覧になっていますか。

 「G7議長国の日本も、人権保障の国際水準では先進国最下位どころか、後進国レベルにあるといえます。世界経済フォーラムのGGI(ジェンダーギャップ指数)では政治分野の男女格差は146カ国中139位で世界ワーストテンに入っていますし、ヒューマン・ライツ・ウォッチの2022年版報告書でも、国内人権機関や差別禁止法が無い点が問題視されています」

 ――「人権」に関して、ガラパゴス化が進んでいるように見えます。原因はどこにあるのでしょうか。

個人の尊重、「利己主義」と誤解する保守層

 「憲法13条は『個人の尊重』を定めていますが、個人の尊重を利己主義と誤解しているのです。戦後の改憲論議で繰り返されてきたのが、日本国憲法が行き過ぎた個人主義という風潮を生んできたという保守層からの批判でした。それは2012年の自民党の憲法草案が、『個人』を『人』に書き換えていることにも表れています」

 「つまり、55年体制以降の長期保守政権が、憲法とその人権規定を尊重しない改憲論の立場をとり、国内人権機関や小学校などでの人権教育の制度化を怠ってきたことに原因があるのではないでしょうか。道徳と人権が混同され、個人尊重主義が利己主義と誤解される傾向とあいまって、十分な人権論議や人権教育の場が確保されない状態が続いてきたと考えています」

 ――人権とはそもそもどんなものなのでしょうか。

 「一般的に言えば、国籍や人種・性別などにかかわらず、すべての人間が持っている不可侵・不可譲の権利のことです。ここでは、すべての人間というところが大事です。1789年のフランス人権宣言などで普遍的な近代人権論が確立され、20世紀後半には国連などを中心に、現代的な人権保障が進展しました。近代には自由権や形式的平等が中心であったのに対して、現代では社会権や新しい人権(環境権など)が保障され、実質的平等が求められています。これは近代の人権に限界や批判があったことに由来します」

 「ところが、日本は『すべて…

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