駅員いなくても……住民らが活気づける「無人駅」 後閑駅・上神梅駅

加藤真太郎

 【群馬】無人駅は経営が厳しいローカル線を維持するための手段でもある。駅員がいないのなら仕方ない。代わりに自分たちが明るくしようという「有人駅」もある。

 JR上越線後閑(ごかん)駅(みなかみ町)。路線バスも入る駅前ロータリーが迎えの車で混み合う夕方5時半前、下り電車が着くと、3人の高校生がいったん駅舎を出た後、明かりのついた「駅務室」に入っていった。

 無人駅だから駅員はいない。ここは元駅務室。空いたスペースを活用し、地元高校生に開放している「後閑駅ナカ学習室 みんなの放課後ターミナル」だ。

 無人化されたのは2018年4月20日。地元住民から「駅に明かりを」という要望が多く寄せられ、町が対策を検討。所有するJR東日本と協議し、21年4月20日、地元高校生が待ち時間を使って、集中して自習できる環境を整えた。

 開室日は月曜~土曜。町内に在住か通学する高校生が対象で、事前登録制で利用料は無料だ。22席あり、運営する一般社団法人「FLAP」によると、昨年12月までにのべ約2500人が利用。テスト前やテスト期間中に増えるという。

 女子生徒(2年)は「両親が仕事をしていて迎えに来るまでの間に使う。英会話イベントもあって、楽しい」。女子生徒(3年)は「学校だと寒いけど、ここは冷暖房もあり、勉強に集中できる」と話した。

 学習室では、町の地域おこし協力隊員でもあるFLAPのスタッフが高校生たちとの会話やSNSで声を拾い、町役場と共有して改善につなげる。昨年12月から受験を控える中学3年生まで対象を試験的に広げたのも、「家だと、幼いきょうだいがうるさくて勉強できないので使わせて欲しい」という保護者の切実な声がきっかけだという。

 移住者のオーストラリア人による出張英会話レッスンや動画制作、アロマオイルづくりなど、将来の選択にいかせたり、地域への愛着を育んだりするイベントも開いている。FLAPの鈴木雄一代表(40)は「地域に根づいた『学びの場』として活性化したい」。

     ◇

 開業した大正元(1912)年に建てられた木造平屋建ての駅舎。年季の入った木製の改札がそのまま残っている。駅舎とプラットホームが国の登録有形文化財だけあって、大正時代や昭和初期にタイムスリップしたような感覚になる。

 わたらせ渓谷鉄道(わ鉄)の上神梅(かみかんばい)駅(みどり市)は、足尾銅山(73年閉山)から鉱石を運ぶ足尾鉄道の駅として開業。その後、国鉄足尾線、JRと経て、89年、第三セクターのわ鉄が路線を引き継いだ。

 無人駅になったのは国鉄時代の70年。かつては地域の子どもたちの遊び場だった。地元の中学生たちがわ鉄で南隣の大間々駅まで通っていたが、今はスクールバスが駅前にとまる。地域の高齢化も進み、利用客は激減。数少ない利用客の大半が駅目的の観光客だ。

 近くの住民が進んで草刈りや木の枝落としを買って出たり、冬のイルミネーションを駅舎に飾ったり。地元の神梅婦人会がコキアやパンジー、ビオラといった季節の花々をホームの花壇に飾り、水やりも欠かさない。駅を大切に思う住民たちの愛が伝わってくる。

 待合室にある「駅ノート」には〈古い駅舎に加え、きれいな花々が……。地元の皆様が大切にしていただいて、ありがとう〉などのメッセージが並ぶ。

 わ鉄は2009年、開業20周年を記念して無人駅のボランティア駅長「ふるさと駅長」を募集。地元局のFMラジオで知った須藤美知子さん(74)が「義父や夫が国鉄(JR)職員だった。私にもできることはないか」と手を挙げた。「やっぱり木の改札が好き。自動改札の時代、こういうのは他にないから」と須藤さん。できる限り、午前8時11分発の間藤行きの列車に手を振って見送っている…

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【春トク】締め切り迫る!記事が読み放題!スタンダードコース2カ月間月額100円!詳しくはこちら