自分と身近な人のため、社会保障知って 10代向けNPO代表が出版

編集委員・清川卓史
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 人生のピンチに使える公的な支援制度は、実はたくさんある。でも、その存在を知らなければ、利用できない。10代の若者に社会保障をもっと知ってもらいたい。そんな願いを込めた本が出版された。

 タイトルは「15歳からの社会保障」(日本評論社、税込み1650円)。書いたのは社会福祉士の横山北斗さん(38)だ。

 2015年にNPO法人「Social Change Agency」(東京都文京区)を設立。昨年からはチャットボットやLINEを活用して困った人を支援する事業などにも取り組む。

 いわゆる社会保障制度の解説本ではない。

 「ケガで仕事を休まなくてはならず、医療費と生活費に困った20代のユウジ」

 「高校生で妊娠し、生活に困ったマミ」

 「母は昼夜のダブルワーク、祖母と弟の世話をしなければならない中学生のサクラ」

 中心になるのは、様々な事情で苦境に陥った人のストーリーだ。

 それぞれが、医療支援や子育て支援などの社会保障制度につながり、暮らしを安定させていく。その過程が、若い世代が感情移入できるような登場人物の目線で描かれる。

 各自のストーリーに関わる社会保障の制度や相談窓口の情報が、末尾に一覧で示されている。

 横山さんは10代で小児ガンを患い、医療費助成の制度を利用した。「『公助』に助けられた」という自らの経験が、福祉の道に進むきっかけとなった。大学卒業後は病院で医療ソーシャルワーカーとして働いていた。

 あるとき、インターネットカフェで寝起きする若者が、病院に救急搬送されてきた。生活に困窮して保険証がなく、ぎりぎりまで受診をがまんしていたという。医療費が減免される無料低額診療などの仕組みは知らず、「生活保護は若いと使えない」などと制度について間違った理解もしていた。

 役所の窓口で申請しなければ支援につながらない「申請主義」の壁。社会保障は権利といっても、その利用をきちんとサポートする仕組みがないと、本当のセーフティーネットにはならないのではないか――。そんな思いが強まり、退職してNPOを立ち上げた。今回の出版も、その思いの延長にある。

 「社会保障というと高齢者の医療・介護・年金というイメージで、10代には遠いものと思いがち。でも、どんな年代も利用する可能性があります。社会保障を知ることは自分だけでなく、身近な誰かを支えることにもつながる。中学生や高校生が社会保障を学ぶ機会が必要です」

 学校の図書室、子ども食堂、学習支援の場などに本を置いてもらえたら。それが願いだ。(編集委員・清川卓史)…

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