第2回「幸せになったらいけない」 さまよう心、救ってくれた「アルバム」

有料記事心のとなりで 阪神大震災28年

鈴木春香
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 「幸せになったらいけない」「私はずっとひとりぼっち」

 岡田幸代(さちよ)さん(44)の心は、いつもぐらついていた。

 高校1年の冬に親が離婚し、折り合いのよくなかった父が家を出た。「やっと母と2人で暮らせる」。阪神・淡路大震災が起きたのは、そんな矢先だった。

 前夜、母に「明日は朝5時半に起こして」と頼んでいた。少し背伸びして入った高校は勉強についていくのが大変で、早起きして英語の宿題をするつもりだった。

 だが、声をかけてくれたのに起きられず、母は台所に向かった。そこで柱の下敷きになった。神戸市東灘区のアパートはぐしゃぐしゃなのに、自分は無傷。たった1人の家族を失った。

 付き合いのあった親戚はみな、自分の子どものことで手いっぱいだった。奄美大島の祖母のところへ引き取られたが、言葉も、風景も、人間関係も、すべてが神戸と違っていた。がれきのない普通の環境に、心はついていけなかった。

 これから勉強して、働いて、お金を稼いで……。母を失った悲しみ、生きていくことへの不安。何をしても満たされない心を、食べることで埋め合わせようとした。体重は20キロ以上増えた。

 「親の分まで頑張りなさい」。周囲の言葉も追い打ちをかけた。

どれだけ涙が出るのかと思うほど泣いた

「心のケア」に光があたった阪神・淡路大震災。母を失い、つらさを押し殺していた岡田幸代さんが見つけたのは「泣ける場所」でした。

 「震災のこと、話していいん…

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    岩尾真宏
    (朝日新聞名古屋報道センター次長)
    2023年1月17日10時29分 投稿
    【視点】

     「だって人の幸せを間近で見られるでしょう」  阪神・淡路大震災で両親など家族全員を亡くした女子高校生に取材した際、卒業後の進路を尋ねた私に、ブライダル関係の専門学校に進学し、結婚式場で働きたいとの夢を語ってくれました。  「なぜ結婚式

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