なお残る、ネット上の差別 川崎市の「ヘイト禁止条例」成立3年
【神奈川】外国にルーツを持つ人たちへのヘイトスピーチに刑事罰を科す全国で初めての条例が川崎市で成立して12月で3年になった。条例に基づいて刑事罰が適用された事例はないが、刑事罰の対象外となっているインターネット上では差別的な投稿は絶えない。
「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」は2019年12月の市議会で成立、段階的に施行された。きっかけは、川崎市で在日コリアンを標的にしたヘイトスピーチが繰り返されたことだった。
16年には国の対策法もできたが、罰則はなかった。そこで川崎市の条例では刑事罰に踏み込んだ。道路や広場、公園などの公共の場所で拡声機などを使って、「○○人は日本から出て行け」というような差別的言動をすることなどを規制する内容だ。
今のところ刑事罰が適用された事例や、その前段となる勧告・命令の対象になるケースもないという。
福田紀彦市長は今月6日の記者会見で「明らかに条例に抵触するような差別的言動が市内でなくなってきている。一定の効果があったのではないか」と評価した一方、「条例に抵触しないからといって何でも許されるというものではない」とも付け加えた。
市民団体「『ヘイトスピーチを許さない』かわさき市民ネットワーク」も今月、川崎市内で開いた集会や記者会見で「制定後は路上で『殺せ』『死ね』などの許しがたいヘイトスピーチを繰り返す状況は大きく改善された」と評価する。
一方、刑事罰の対象となっていないネット上の差別的な表現は引き続き課題として残っている。
市民ネットは「ネット上の特定の民族集団に対する敵意や差別を扇動する表現は続いている」と指摘し、被害者救済が急務と訴える。
条例では、インターネット上の差別的言動についても、憲法学者や元裁判官らでつくる審査会の答申を踏まえて、市長が拡散防止措置や内容の公表を行う手続きが設けられた。市によると、これまでに事業者に対し60件の削除を要請し、47件が削除されたという。
ただ、被害を訴える側にとって市の姿勢は慎重にうつる。
川崎市に住む在日朝鮮人3世の崔江以子(チェカンイヂャ)さん(49)は記者会見で、20年に条例に基づいてツイートやブログ、掲示板などネット上の計332件の削除を求めたところ、市の審査会が差別的言動と認めたのは8件だったと明らかにした。
一方、同じリストを横浜地方法務局に提出し救済を求めたところ、重複や削除済みを除き300件のうち192件が人権侵害と認定されたという。崔さんは「市の手続きは慎重すぎる。早く消してほしい」と訴える。
市の担当者は「表現の自由に留意し、社会状況の変化を踏まえながら条例に定めたルールにのっとり適正に運用していきたい」としている。
有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。
【春トクキャンペーン】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら