水草とヨシ原の多様性② ビワハツ 琵琶湖博物館研究だより

専門学芸員・芦谷美奈子
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 琵琶湖やその周辺の水域では、様々な形の水草が見られます。生育形として区分され、ヨシのように浅瀬で水面から立ち上がる抽水植物、ヒシのように葉が水面を覆う浮葉植物、ホテイアオイのように水面に浮く浮遊植物、水中で一生の大半をすごす沈水植物の四つに分けられます。

 琵琶湖周辺の沈水植物は、これまでに40種類以上の生育が確認されています。そこには、固有種のネジレモやサンネンモの他、絶滅危惧種(IB類)のムサシモなども含まれ、豊かな水草相を現しています。

 水中に適応している沈水植物は、陸上植物とは異なる様々な特徴を持ち、花の構造(花粉媒介方法)もその特徴のひとつです。我々が普通にイメージする花は、花びらがあり昆虫によって花粉が運ばれるものが多いですが、沈水植物では、花粉も主に水(あるいは風)によって運ばれるため、花びらがなく目立ちません(一部の種類を除く)。

 そのような沈水植物の中で、筆者が長年調査をしてきたのがイバラモです。イバラモは、トチカガミ科の沈水植物で、雌雄異株の一年生であり、堅くチクチクした棘(とげ)があります。北湖でも南湖でも、浅瀬でも水深8メートルでも、琵琶湖の中の広範囲にまんべんなく分布しています。

 イバラモは、開花から受粉までがすべて水中で完結する「水中媒」という花粉媒介方法をとり、葉の根元に地味な花をひっそりと付けます。筆者は、雌雄異株なのに標本では雌株が多いと知り、その性比に着目して調査を行ってきたのですが、その中で新しいことが色々分かりました。

 イバラモの雄株は7月から8月に成長して開花し、受粉した雌株が実をつける頃(9月以降)には枯れてしまうことが分かりました。雄株の標本が少ないのは、おそらくこの時期のずれが原因でしょう。また、図鑑等では数十センチとされる草丈も、琵琶湖の水深2メートルより深い場所では150センチ以上あるなど、大きな湖のダイナミックさを体現する種類でもあります。

 希少種や固有種だけでなく、普通の種類も面白く繁茂する琵琶湖は、水草研究者にとって魅力の塊です。

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