直木賞の小川哲さん、寄稿に記していた執筆への思い 作家の仕事とは

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 「地図と拳」で第168回直木賞を受賞した小川哲さん。危機に向き合った時、作家に何ができるのかを考えつづけてきた小川さんが、受賞作に込めた思いとは何だったのでしょうか。年初の朝日新聞への寄稿で触れていました。

寄稿 不確実な未来に向き合う 作家・小川哲さん

 2020年に新型コロナウイルスの流行が始まってから、フランス人作家カミュの「ペスト」がベストセラーになった。「ペスト」は、その名の通りペストの猛威にさらされたアルジェリアのオラン市が舞台で、感染症が広がる中、外部から遮断された市民たちのさまざまな反応が描かれた作品だ。70年以上前に書かれた作品が、現代になってどうして多くの人に読まれることになったのだろうか。それはきっと、新型コロナによって変容させられた僕たちの生活や精神の本質を「ペスト」が描いていたからに違いない。

おがわ・さとし 1986年生まれ。「ゲームの王国」で山本周五郎賞、日本SF大賞、「地図と拳」で山田風太郎賞を受賞。近作に「君のクイズ」。

 新型コロナの流行によって再度脚光が当たった作品は「ペスト」だけではない。僕も当時、取材などで「今、読むべきSF作品は何か?」という質問を何度か受けた。SFには「パンデミックもの」と呼ばれるジャンルが存在しており、そのうちのいくつかはコロナ禍における人類の混乱や不安、各国政府や国際社会の動きなどを見事に言い当てていた。僕がそういった先見的な作品を挙げると、決まって「どうしたら作家は未来を予測することができるのですか?」と質問された。そんなとき、僕はいつも、「作家は未来を予測することなどできません」と答えるようにしていた。明日も見えないコロナ禍で、この先がどうなるか知りたいと思うのは人として当然のことだろう。これから何が起こるのか。この先、いつになったら以前の暮らしを取り戻すことができるのか。しかし、作家はその答えを持っていない。作家だけではない。たぶん誰も持っていない。

 作家の仕事は、未来を予測す…

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