低成長で余裕なき社会、生き抜くためのタイパ Z世代あおる大人たち

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聞き手・渡辺洋介 矢島大輔
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 映画や授業などの動画を倍速で見る「倍速視聴」、興味のないシーンを10秒単位で飛ばす「飛ばし見」、結末を事前に調べてから見る「ネタバレ視聴」。そんな視聴習慣が広がっています。「映画を早送りで観(み)る人たち」(光文社新書)の著者で、ライターの稲田豊史さん(48)に聞くと、「無駄」を大目にみて受け入れる余裕が失われた社会の姿が浮かんできました。

 ――倍速視聴や飛ばし見の現状は。

 民間の市場調査会社「クロス・マーケティング」が2021年3月に行った調査では、20代の半数近くが倍速視聴したことがあると答え、30代以上でも3割前後が当てはまりました。

 私が行った青山学院大の2~4年生に対する調査では、倍速視聴を「よくする」という人は35%、「時々する」という人は31%となり、すでに7割近い人が習慣的に行っています。飛ばし見を「よくする」という人も50%に上っています。

いなだ・とよし 1974年生まれ。映画配給会社やDVD業界誌の編集長などを経て、フリーの編集者、ライターとして独立。その他の著書に「ぼくたちの離婚」「セーラームーン世代の社会論」。

 ――若者だけの現象なのでしょうか。

 クロス・マーケティングの同じ調査からは、年齢が若いほど倍速視聴の経験率が高いとは言えそうです。ただ、50代で3割超、40代と60代でもそれぞれ2割超が倍速視聴をしたことがあると答えています。2000年前後に生まれた10~20代半ばの「Z世代」と呼ばれる若者特有の現象ではありません。

 私自身、こうした視聴スタイルに関心を持つようになったのは、若者というより30、40代の友人が倍速視聴をしていると知ったことがきっかけです。

 コロナ禍で巣ごもりの時間が増え、定額の動画配信サービスで映画やドラマを見る人が増えました。「愛の不時着」や「梨泰院(イテウォン)クラス」をはじめとした韓国ドラマが流行していたころで、友人が倍速視聴をしているとSNSで知りました。あくまで肌感覚ですが、2021年より22年の方が倍速視聴は進んでいると感じます。

「コスパを考えないことは罪」。Z世代がそう感じるほど、費用対効果の強迫観念にさらされている、と稲田さんは指摘します。SNSの発達やビジネスインフルエンサーの影響も交えて解説します。

「大人社会のルール」 子どもに漏れ出した10年

 ――何のために倍速視聴や飛…

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    安田峰俊
    (ルポライター)
    2022年12月26日10時47分 投稿
    【視点】

    以前、拙著『みんなのユニバーサル文章術』(星海社新書)で、本記事でいう「ビジネスインフルエンサー」みたいな人たちのビジネス言説について考察したことがあります。 私の本では「意識高い系」と書きましたが、指すところは、ビジネスインフルエンサー

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    金澤ひかり
    (withnews編集部=若者、ネット)
    2022年12月22日10時6分 投稿
    【視点】

    新たなトレンドや生活スタイルを取り上げるとき、ことさら「若者」に焦点を当て、その事象だけを説明し、受け手の「驚き」ばかりを引き出しがちですが、そこには社会的背景が必ずあることでしょう。では、その社会的背景は誰が作り上げたものなのか、というこ

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