識者が見る安保3文書 中国内の軍事施設へのミサイル攻撃も選択肢に

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聞き手・野平悠一 聞き手・阿部彰芳 聞き手・北川慧一
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 政府は16日の閣議で、新たな国家安全保障戦略などの安保関連3文書を決定しました。その評価や、日本が取るべき安全保障政策について、慶応大の神保謙教授(国際安全保障論)に聞きました。

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 日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増していることは間違いありません。その構造自体が変化し、かつての延長線上で単に防衛力の「量」を強化すれば済むという状況ではなくなりました。米国が圧倒的優位だった時代から、米中の通常戦力が拮抗(きっこう)し、日本の海空優勢が維持できない厳しい環境に変化しました。

 今回の安保関連3文書の改定は、そうした日本の「対中劣勢」を前提としています。中国が力による現状変更をしようとした時、その作戦遂行能力をくじくための「反撃能力」を保有すると打ち出したことが新たな戦略の肝です。

認識させ、中国の動きを抑止することが重要

 南西諸島など日本の領土に上陸しようとする敵をミサイルで攻撃する「スタンド・オフ防衛能力」の強化にすでに取り組んでいますが、反撃能力を保有するということは、標的をより遠方に設定し、中国国内の滑走路や港湾施設、対空防衛施設などへのミサイル攻撃も選択肢に加えることを意味します。

 日本に対する武力攻撃への対応に加え、例えば、米中対立による台湾海峡危機が起き、米国への武力攻撃が発生して日本の存立が脅かされる「存立危機事態」に至った時に、日本が集団的自衛権の行使として中国の揚陸艦を攻撃することも可能になります。日本がそうした能力を保有していると認識させ、中国の動きを抑止することが重要です。

北朝鮮の弾道ミサイルへの対応」ではない

 反撃能力が北朝鮮の弾道ミサイル対処にどのような役割を果たすかは今後の課題です。北朝鮮対応の主体は米韓同盟であり、日本の反撃能力の役割は共同作戦での補助的なものとなるでしょう。反撃能力の保有によって、米韓の共同作戦計画の意思決定の輪に日本が入るテコとすることには大きな意義があります。

 米国との同盟関係は依然として日本の安全保障政策の基盤です。日本が小・中規模の紛争に自律的に対応できる能力を整えていくことで、日米同盟をより安定的なものにできます。

 中国や北朝鮮が、米国は対応しないだろうとみて仕掛けてくる脅しを日本自身で防ぐことにもつながります。個別的自衛権と集団的自衛権の接続性の維持・強化は日本周辺の抑止力にとって重要です。

戦後日本の大きな分かれ目

 今回の国家安全保障戦略の改定で、中国を「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と位置づけました。中国の現状について過大評価するでも、過小評価するでもない表現です。平和的な手段で中国との関係を構築したいというメッセージを込めた戦略にするため、「脅威」ではなく「挑戦」を使ったのは非常に含蓄があると思います。

 今回の安保関連3文書の改定は、戦後日本の大きな分水嶺(ぶんすいれい)になるでしょう。防衛力行使の戦略的な幅は広がりますが、中国との偶発的な衝突や、誤算による軍事的対立のエスカレーションが起こらないように日中間、米中間で危機管理体制を整備していく必要があります。(聞き手・野平悠一)

政府は16日の閣議で、新たな安全保障関連3文書を決定しました。敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有や、防衛予算のあり方などについて成蹊大の遠藤誠治教授と成蹊大の遠藤誠治教授にも聞きました。

■成蹊大の遠藤誠治教授(国際…

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