建設残土が住民の不安材料に

河原田慎一
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 トンネル建設や宅地造成などで出る建設残土の「行き先」が、京都府内で大きな問題になっている。山林を切り開いた場所に残土が置かれていると集中豪雨によって土砂が崩れ、ふもとの住宅地に被害が出る危険性があるからだ。北陸新幹線の延伸工事を控え、多量に出る残土の処理方法も決まっていない。国土交通相や府知事などに対し、延伸計画に関する意見書を提出した京都弁護士会は、建設残土を盛る行為を規制する条例をより厳しくすべきだ、と指摘している。

 北山杉の美しい木立が広がる京都市北区の杉阪地区。地区を流れる川の上流にある残土置き場の存在に、地区の住民は不安を募らせている。

 京都市によると、府内の建設業者が2020年に、約6千平方メートルあった残土置き場の拡張を申請し、市は「街道から見た景観が、損なわれることはない」として許可。今年8月には、拡張の作業をさらに2年間延長することを認めた。

 元地区長の小阪隆治さん(74)は、残土置き場が拡張されたことで、多量の土砂を積んだダンプカーが市街地と地区をつなぐ鷹峯街道をひんぱんに行き交うようになり、住民が不安に感じるようになったと話す。

 残土置き場の先端から集落までは約700メートル。小阪さんは、「もし、静岡県熱海市で昨年に起きたような土石流が起きれば集落はひとたまりもない。せめてコンクリートの土留めをつくるよう、市は業者に指導してほしい」と訴える。

 京都市は20年、土地の埋め立てなどを規制する条例(土砂条例)を施行した。その2年前の18年、無許可で伏見区内に投棄された残土が集中豪雨で崩れ、住宅地近くまで押し寄せる問題が起きたためだ。条例では、3千平方メートル以上の場所に残土を置くなど土砂を盛る場合、事前に市の許可が必要だと定めている。

 だが、杉阪地区の場合、6千平方メートルの残土置き場は条例の施行前につくられたため対象外。拡張部分も2950平方メートルと対象よりわずかに少なく、市は「許可は不要」としている。

 同様の条例は府も設けている。残土置き場を作る際、知事の許可が必要な対象面積は3千平方メートル以上で、京都市と同じだ。一方で、亀岡市南丹市など、対象面積を500平方メートル以上に定めたより厳しい土砂条例を制定している自治体もある。

 京都弁護士会は、府や京都市の「3千平方メートル以上」の基準では、「許可による規制が及ばない埋め立てが増え、土砂災害リスクが拡大する」と指摘する。念頭にあるのは、与党や関係自治体が来春の着工を求めている北陸新幹線の延伸だ。

 弁護士会は11月、延伸計画について考えるシンポジウムを開いた。北陸新幹線は、敦賀(福井県)から小浜を経由し、府内を長大なトンネルで縦断し、新大阪までつなげる延伸計画が進められている。トンネル建設時に出る土砂の量は、10トンダンプで160万台分以上とみられている。弁護士会の公害対策・環境保全委員会は「京都市は対象面積をより狭めるよう土砂条例を改正して、盛り土による土砂災害リスクを減らすべきだ」と指摘した。

 こうした指摘に対し、京都市の担当者は「土砂が他の自治体に運ばれないよう、府と足並みをそろえている。土砂が崩落する危険性などについて住民から指摘があれば、その都度現場を確認し、対応している」と話す。

 専門家からも懸念の声が上がる。森林経済学が専門の岩井吉弥・京都大元教授は、山中の建設残土が豪雨で川に流れ出ると、下流の市街地に到達して大きな被害をもたらしかねないと指摘する。「地球温暖化の影響で、豪雨の危険性は高まっている。ただでさえ林業の衰退で、山から河川に土砂が流れ込みやすくなっているところに残土が重なると、甚大な災害になりかねない」。その上で、「土石流はどこでも起こりうる問題。行政は地域の意見を聴きながら、条例や規制に『抜け穴』がないよう改善していくべきだ」と話した。(河原田慎一)

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