甲状腺がん患者への調査結果公表 支援充実、検査継続などを県に要望

笠井哲也
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 東京電力福島第一原発の事故後に甲状腺がんと診断された患者らを支援しているNPO法人「3・11甲状腺がん子ども基金」が1日、患者や保護者らに実施したアンケートの結果を発表した。当事者は再発や将来の健康面の不安を抱えているとして、県に支援の拡充を求めた。

 基金は寄付をもとに、2016年から原発事故時に18歳以下で福島など16都県に住み、甲状腺がんと診断された194人に給付金を支給してきた。今年8月に給付額を10万円から15万円に引き上げて、さかのぼって支給する際、194人に調査票を郵送。10月25日までに86・6%にあたる168人(女性108人、男性60人)から回答を得た。

 健康状態についての問いには、約4割が「心配なことがある」と回答。自由記述欄には「手術後から精神的に病んでしまうことが定期的にある」「再発しているので心配は尽きない。この先出産できるのか、あと何年生きられるのか、といつも考えている」といった不安がつづられていた。

 生活面では「特に問題ない」が県内外で6~7割を占めたが、「一人暮らしになり、経済的な面で常に不安」「休みがちで給料面が心配」との声が上がった。政府や県への要望として「『手帳』を作り、健康不安の検査や相談、対応の窓口を明確にしてほしい」「原発事故との因果関係を国に認めてほしい」などの意見が寄せられた。

 また、今回のアンケートでは、県内の患者(112人)に比べ、県外の患者(56人)が重症化している傾向も明らかになった。県内の患者は甲状腺の半分を摘出する「半葉摘出」が80%超を占めたが、県外は「全摘出」が約半数に上った。また、がんの転移時などに放射性ヨウ素を内服して、がん組織を破壊するアイソトープ(RI)治療を受けた人の割合は県内が14%、県外が36%、複数回のRI治療を受けた人は県内2%、県外21%と大きな差が出た。

 基金の崎山比早子代表理事は「県内は、県の県民健康調査で早期にがんを見つけたことで、半葉摘出ですんだ人が多い」と指摘。甲状腺検査をめぐっては検査縮小を求める専門家もいるが、「検査のメリットはすごく大きい。患者本人たちも検査のデメリットは感じていない」と主張した。

 基金の崎山代表理事と吉田由布子事務局長はこの日午前、アンケート結果をもとに県に要望書を提出。甲状腺がん患者の要望を直接聞き取る機会を設け、学校検査の継続などを求めた。

 加えて、通常であれば甲状腺がん患者の男女比が1対3~5になるのに対し、県や基金の調査では1対1・7、1対1・2と、男性の比率が高くなっていることについて、詳しく分析を進めるよう求めた。チェルノブイリ原発事故後、男性の比率が上がるのは特徴的だとされたという。

 県は回答は避け、「要望はうかがう」と反応したという。(笠井哲也)

     ◇

3・11甲状腺がん子ども基金のアンケート結果概要

Q:現在の体調 ※カッコ内は福島県

「特に問題ない」   53%(57%)

「心配なことがある」 39%(41%)

「悪い」       6%(0%)

「無回答」      2%(2%)

<回答者の声>

「術後から、精神的に病んでしまうことが定期的にある」(24歳男性/中通り)

「再発しているので心配は尽きない。この先出産できるのか、あと何年生きられるのか、といつも考えている」(26歳女性/中通り)

「大汗をかく。疲れやすい。寝てばかりいる」(21歳女性の母/宮城県)

「RI治療では切り取るのが難しそうな病巣が残っている」(23歳女性/東京都)

Q:生活面での心配 ※カッコ内は県外

「特に問題ない」   64%(73%)

「心配なことがある」 30%(25%)

「無回答」      6%(2%)

<回答者の声>

「一人暮らしになり、経済的な面で常に不安」(26歳女性/浜通り)

「病院によく行くので出費が多い」(27歳女性/避難地域等13市町村)

Q:自治体や政府、医療機関への要望

「支援制度の検討の場に当事者を加えること」(28歳女性/中通り)

「国も責任を認めて『手帳』をつくり、健康不安への検査や相談、対応の窓口を明確にしてほしい」(22歳女性/避難地域等13市町村)

「半年に一度、東京から福島への通院がずっと続く。交通費の負担が大きい」(27歳女性/中通り)

「原発事故との関係を明らかにしてほしい」(26歳女性/中通り)

「原発事故と甲状腺がんの因果関係を国に認めてほしい」(27歳女性の母/中通り)

※地域は事故当時

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