日本の逆転劇に歓喜の声 コロナ禍初のW杯、渋谷のバーにも熱気

伊木緑 丹治翔
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 サッカー・ワールドカップ(W杯)カタール大会で、日本にとって初戦のドイツ戦が23日午後10時から始まった。後半で2ゴールをあげる逆転劇に、東京・渋谷のスポーツバー「Fields」に集まった約120人は歓喜の声を上げた。

 東京都世田谷区の大学生金子佑輔さん(22)は「まさか勝つとは思わなかったので、とてもうれしいです。浅野拓磨選手の活躍がすごかった」と興奮して話した。東京都武蔵野市の大学生竹山翔吾さん(23)は「森保一監督の選手交代がさえていた」と話した。

 日本コールの大合唱が響くなかキックオフすると、前半8分に前田大然選手のシュートがドイツのゴールネットを揺らし、店内は最高潮に。しかし、オフサイドでノーゴールが分かると、ため息が広がった。その後、前半32分にPKからドイツに先取点を奪われたが、後半30分、38分と日本が連続ゴール。最後にドイツの猛攻を防いで勝利が決まると、店内の客は跳びはねながら喜びを分かち合った。

 試合開始前は、「応援団長」を名乗る店長、田中守さん(68)が店内を盛り上げた。「空の色は何色だ! 海の色は何色だ!」

新調した100インチのスクリーンには試合会場の様子が映し出され、準備は万全。東京都世田谷区の大学生石原淳平さん(24)は、「4年前もこの店で日本の勝利を見たので、今回も来ました。三笘薫選手のゴールに期待したい」。

 日韓大会があった2002年に営業を始め、店としては6大会目の応援になる。ただし、コロナ禍では初めてのW杯。田中さんも店を盛り上げつつ、「マスクを着けての観戦をお願いします」と感染対策を呼びかけた。

 渋谷駅西口に近い店は元々、天然酵母のパンを売るカフェだった。しかし、売り上げは鳴かず飛ばず。JリーグやW杯の盛り上がりを見て、スポーツバーに改装した。

 普段は、サッカーをはじめプロ野球、ラグビー、ボクシングなどあらゆるスポーツの映像を流した。過去のサッカーW杯日本戦の日は、店内に200人以上が入り、身動きもとれないほどのすし詰めで声をからした。

 そして、コロナ禍が店を襲った。20年春の最初の緊急事態宣言が解除され、営業を再開したが、客はめったに来ない。十数人いたスタッフは一時、1人を残してやめてもらった。月100万円の家賃や光熱費を払うため、生命保険を解約し、サラ金からも借金した。

 さらに、もう一つ、スポーツバーならではの苦しみがあった。世界中で大きなスポーツイベントが軒並み中止になった。

 同じ場に集って試合を楽しむという、スポーツバーの存在意義も見いだせない。無観客で行われた昨夏の東京五輪は、ほとんどの競技を客のいない店でひとりで見た。

 今年に入って飲食店に対する制限はなくなり、海外からの観光客が入り始め、空気は少しずつ変わってきた。それでも客の入りはコロナ禍前の6割ほど。さらに開幕前には、「第8波」の兆しが出てきた。これまでサッカーW杯の日本戦がある日は200人以上の予約を受け付けていたが、今回は120人に絞らざるを得なかった。

 「せっかくの久しぶりの大きなイベント。一市民として、感染拡大は防ぎたいが、お祭り騒ぎに水は差したくない」

 田中さんは複雑な気持ちをにじませながら、客とともに声援を送った。伊木緑丹治翔

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