大井川鉄道全線復旧のめどたたず

黒田壮吉
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 【静岡】台風15号の影響によって沿線で土砂崩れや倒木などが相次いだ大井川鉄道島田市)の大井川本線は全線復旧のめどがたっていない。一部(金谷―家山)は12月中旬の再開を予定しているが、コロナ禍に加えて台風による経営への打撃が大きいとして、同社は県や沿線自治体などに公的支援を求めている。鈴木肇社長は「観光事業の大幅収入減で、地域の足も守れなくなっている。自治体と連携し対応できれば」と話す。

 台風15号の被害から約2カ月。11月中旬、島田市福用にある採石場跡地から流れ出た土砂で山肌がえぐられていた。大井川をはさんだ対岸から線路が土砂に覆われた現場を確認すると、運行再開に向け、仮設防護柵を設置する作業に取り組んでいた。

 同社によると、台風15号の影響による土砂の流入や倒木などで計46カ所の被害を受け、9月24日から全線が運休した。井川線(千頭―井川)は10月22日に全線復旧したが、大井川本線は運休が今も続き、バスによる代行輸送を行っている。同社によると、収入がない中、バス運行の出費のみがかさんでいる状況という。

 被害が大きかった採石場付近は土砂崩れが延長約80メートル、幅約40メートルで発生し、県が費用を負担して土砂を撤去した。しかし、それ以外の復旧には自社の負担で対応している。これまで被害があれば独自で対応してきたが、コロナ禍以降の経営悪化で今回の台風被害を独自で復旧するには限界があるという。

 そんななか、大井川本線の金谷―家山間(17・1キロ)は12月16日に再開する予定だ。車両整備中だった蒸気機関車(SL)「かわね路号」も約1年ぶりに登場し、1日1往復する。「きかんしゃトーマス号」も初日に運転開始し、週末を中心に来年1月9日まで折り返し運転で1日2便走るという。

 だが、残りの家山―千頭間(22・4キロ)は依然として被害の全容が分からず、復旧の見通しが立っていない。

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 9月の台風15号で大きな被害を受けた大井川鉄道の鈴木肇社長が朝日新聞のインタビューに応じた。新型コロナウイルスの影響による乗客減に続く災害で、長期的な影響が懸念されている。被害の現状や求める支援について聞いた。

 ――9月の台風15号の被害状況は

 大井川本線で20カ所、井川線で26カ所の被害がありました。井川線は10月22日に全線再開しましたが、特に大井川本線の神尾―福用間での採石場跡地からの土砂の流入による影響が大きい。金谷―家山間は12月16日の再開予定です。いまは収入が絶たれていますが、年末年始にかけて新金谷―家山間でトーマス号を走らせ、ある程度の収益を見込みたいと考えています。

 ――家山―千頭間の被害の状況は

 千頭までも再開を急ぎたいのですが、被害の全容がつかめず、復旧の見積金額も出せていません。今までは沿線で被害があれば、自力で直してきました。ただ、コロナ禍の影響で旅客数が減少したこともあり、2020年度、21年度は赤字となるなど、すぐに直す体力がないというのが正直なところです。

 元々、通勤通学など地域の足として鉄路を維持する経費を、SLなどの観光客輸送が稼いできました。今はそのサイクルが崩れており、復旧のための公的支援を求めたいと思っています。

 ――沿線自治体も観光で影響を受けています

 地域輸送はバスで代替可能なところもありますが、大鉄は観光資源として、大井川流域の地域を守っている側面もあります。人口減少が進むなか、全国のローカル線の維持管理が難しくなっており、大鉄の場合は台風15号の被害で、鉄道存廃の問題が顕在化しました。国や県、沿線市町と今後の方策などを協議できればと思っています。

 ――2025年には創立100周年を迎えます

 創立100周年に合わせ、SLのC56形135号機の復活にチャレンジしています。台風被害はありましたが、11月30日までクラウドファンディングを実施しており、多くの応援メッセージをもらっています。大鉄は、1976年に日本で初めてSLの動態保存を始めました。厳しい経営環境ですが、大鉄が長い歴史の中で培ってきた技術と熱意でSLを復活させ、子どもたちに動くSLを伝承していきたいと思っています。

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 すずき・はじめ 1986年入社。取締役管理部長、専務取締役などを経て2017年10月から代表取締役社長。静岡市出身。60歳。

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