西九州新幹線 お祝いムードだからこそ地に足つけた取材を
佐賀県と長崎県を結ぶJR九州の西九州新幹線「かもめ」(武雄温泉―長崎)が9月23日、開業した。
西九州新幹線は当初、博多まで乗り換えなしでつながるルートとして計画されていた。ただ、整備方法をめぐって佐賀県と国などの間で結論が出ず、未整備区間(新鳥栖―武雄温泉)を残してのスタートとなった。
長崎からみれば、「道半ば」の開業。地元住民はどう感じているのか。1カ月半が経ったいまも、正直、よく分からない。新幹線がもたらす効果に期待を寄せる人たちと、恩恵を感じない人たち。その間に大きな隔たりがあるように感じるからだ。
開業に向けた盛り上がりは、取材を通して確かに伝わってきた。
5月にあった初めての走行試験。かもめを一目見ようと、多くの住民が停車駅に駆けつけた。保育園児から老人クラブの会員まで、みんな目を輝かせていた。
鉄道ファンの熱気も高まった。初日の一番列車の指定席は、発売後たった10秒で売り切れに。開業当日の長崎駅には、自由席で一番列車に乗りたい人たちが早朝から列をなした。2日前から並び始めた人もいた。
ただ、開業を肯定的に捉えている人ばかりではなかった。
長崎駅から歩いて30分ほど離れた場所にある飲食店主は、「お客さんはみんな駅前の店に取られてしまった」とこぼした。長崎市に住む会社員男性(29)は「駅前が変わっているのは感じるが、開業効果がどのくらいあるのか」と苦笑いしながら、首をひねった。
長崎市は、全国の自治体の中でも流出人口が多い。特に若い世代の流出が顕著で、高齢化も進む。生産年齢人口(15~64歳)に至っては、2040年ごろに全体の5割を切る見込みだ。
「新幹線の開業を地域の活性化に結びつける」。取材中、自治体や財界関係者がこう話すのをよく耳にした。確かに開業を機に長崎を訪れる人は増えているように感じる。地域の活性化につながれば、という思いは私自身もある。
ただ、新幹線が地域の課題を解決してくれるわけではない。高齢化が進む中、地域の身近な足をどう確保し、どう人口を維持していくのか。それぞれの対策をあらためて考える必要があるのではないか。
「お祝いムード」で課題が見えにくい今こそ、市民の声を取りこぼさないよう、地に足をつけた取材をしていきたい…