体育の評価、実は変わった 実技が苦手でも高評価な子は増えるのか
どうしても逆上がりができない。泳げない。球技が苦手――。体育の実技が苦手で、疎外感や劣等感を抱く「体育嫌い」の子は、今も昔もいます。
実は、体育のカリキュラムのもとになる学習指導要領は、約10年に1度の改訂で、実技が苦手な子も高評価にできる仕組みに大きく変わりました。どんな狙いで、何が課題なのでしょうか。最新の小学校体育などの改訂に文部科学省の教科調査官として深く関わった、帝京大教授の高田彬成さんに聞きました。
増える「体育嫌い」
――体育嫌いの子は増えています。国の調査によると、中2でスポーツが「嫌い」「やや嫌い」という子の割合は、女子は2008年度の20%が21年度には24%に、男子は08年度の11%が21年度は12%に増えていました。
例えば、逆上がりや、球技でシュートなどができることを目指すような「技能」中心の授業をしてしまうと、うまくできない子の中には疎外感や劣等感を抱いたり、自己肯定感が低くなったりする子が出てきてしまうのは無理もないことです。
昔から一定数そういう子はいて、少なからずその子の自己責任のようにとらえられてきましたが、あまりに酷だと思います。
50メートル走のタイムひとつとっても、全体的な体力は以前に比べて低下しています。先生が昔と同じレベルの技能での達成を求めてしまうと、苦手意識を抱く子はそれだけ多くなり、体育嫌いの子も増えきてしまっているのだと思います。
先生方が授業づくりで参考にする学習指導要領で、技の習得を目指し、「技能」を単独で評価してきた弊害と言えるかもしれません。
学習指導要領の改訂で
――改訂にあたっては、その反省点をどのように反映されましたか。
直近の改訂(小学校では2020年度から、中学校は21年度から全面実施)では、体育に限らず育成を目指す資質・能力として、①「知識及び技能」②「思考力、判断力、表現力等」③「学びに向かう力、人間性等」が立てられました。
体育については、②と③が明示されたことで、「逆上がりができる」「跳び箱がとべる」といった技能以外の資質や能力にも重点を置いて評価するよう促しています。
小学校体育の学習指導要領解説の各領域に、それぞれ「運動が苦手な児童への配慮の例」「運動に意欲的でない児童への配慮の例」といった項目を設けました。
運動が苦手な子へ常に配慮をした上で授業をつくることが大切ですという先生へのメッセージです。
――過去には、一部の学校での、リレーで順位をつけない運動会の様子が報道されたこともありますが、技能での評価をやめるわけではないのですね。
授業はレクリエーションではないので、「できるできないに関わらず楽しめればいい」という授業は、今までもこれからもないと思います。
技能をまったく評価しなければ、運動で輝いている子の個性を見落としてしまいます。絵が得意な子にとっての図工や、歌が得意な子にとっての音楽と同じです。
目的は技能の習得だとしても、目標を立てて課題を解決するために工夫し、子どもたちがお互いに意見を出し合うことが大事です。その結果として技能の習得があれば万々歳ですが、そのプロセスを評価すべきで、ここの評価があいまいだったと感じています。
建前でなく、「実技以外」で本当に評価できる?足が速かったり球技がうまかったりしても低評価というのは受け入れがたい人もいるのでは? 記事後半では、疑問をぶつけました。
――「実技以外」をどのように評価できますか。
技能が苦手でも、マットや跳…