栄光と惨敗と苦悶「もう一度、魂の棋譜を」 一力遼棋聖の現局面

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北野新太

 囲碁の一力遼棋聖(25)は時代を制する期待を負いながら、果たせないまま奮闘を続けている。頂点には依然として井山裕太名人(33)=本因坊・王座・碁聖と合わせ四冠=が君臨する。宿敵の芝野虎丸九段(22)も覇権をうかがう。一進一退を重ねる自分をどのように捉えているのか。一力に聞いた。

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 何のために自分は囲碁をしているのだろうか、自分は本当に囲碁を好きなのだろうか、自分はどこへ向かっているのだろうか、という自問自答を始めるようになった――。

 一力は井山に完膚無きまでに敗れ去り、底辺まで沈んだ今夏の心情を告白した。

 そして、再び抱くようになった復活への決意を。「魂のこもった棋譜をつくれた時の気持ちを探し求めている。もう一度取り戻したい」

 25日朝、静岡県熱海市の老舗旅館「あたみ石亭」。一力は第47期名人戦七番勝負第6局の舞台にいた。

 前年の名人戦では井山と激闘を演じた末、3勝4敗で惜敗している。捲土重来(けんどちょうらい)を期して再び大舞台に躍り出た――わけではない。今年の挑戦者は芝野である。一力は朝日新聞の依頼を快諾し、解説者として現地を訪れている。両対局者の戦いを見つめながら、どこかで複雑な思いを抱く瞬間などはないのだろうか。

 「もちろん対局者として来たかった思いはありますけど、第三者だからこそ見えてくるものもあります。自分が今、日本の中で勝つのが特に大変だと思う棋士は井山さんと芝野さんです。棋譜を追うだけではなく、対局の空気を肌で感じるのは勉強になりますから」

 今シリーズは名人先勝の後、挑戦者が3連勝して奪取まで残り1勝と迫ったが、カド番で無類な強さを発揮する名人が1勝を返し、井山の2勝3敗で第6局を迎えている。

「あの最終局だけは違った」。一力は棋聖を獲得し、頂点を極めた。だがその後、深刻な状態に陥る。井山と芝野の名人戦を見つめる一力は言う「未来は変えていける」と。

 「2~4局は井山さんの中に…

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