自己懐疑が生んだ成果、ノーベル賞のペーボ氏 福岡伸一さんに聞く

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 今年のノーベル医学生理学賞は、古代ゲノム学という新たな研究分野を切り開いた、マックス・プランク進化人類学研究所のスバンテ・ペーボ氏に決まった。分子生物学者青山学院大学教授の福岡伸一さんに解説してもらった。

 19世紀半ば、ドイツのネアンデル渓谷で発見された化石人類、いわゆるネアンデルタール人は現生人類(ホモ・サピエンス)の祖先ではないかとして、世界的な注目を浴びた。しかしネアンデルタール人は実は、現生人類とは違う人種でかつて共存していたが、約3万年前までに謎の絶滅を遂げた。もしネアンデルタール人が現在まで生き延びていれば、同級生のうち数人がネアンデルタール人で、これが本当の「人種問題」となり得たかもしれない。

 ただし、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人は完全な別人種ではなく、別種になりつつある岐路にあり、一部交配があった。このように現在の私たちの成り立ちを考古学的サンプルからDNAレベルで明確に解明したのが、今年のノーベル医学生理学賞に決まったスバンテ・ペーボの切り開いた新しい研究分野「古代ゲノム学」だ。

 ノーベル賞は新しい研究分野の草分けを顕彰してこそ輝く賞だから、ペーボの単独受賞は真骨頂といえよう。しかしペーボがこの驚くべき研究成果を目の当たりにしたとき、彼は次のように思った。

 「わたしの場合、驚くような結果、あるいは思いがけない結果に遭遇すると、いつも懐疑心が湧き上がってくる。目の前のものは何かの間違いではないだろうか」

 これはペーボの著作「ネアンデルタール人は私たちと交配した」(文芸春秋)からの一節である。

駆け出しの頃に負った大やけど

 なぜ彼はこれほど自己懐疑的で抑制的な態度をとったのだろうか。

 それには明確な理由がある…

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    おおたとしまさ
    (教育ジャーナリスト)
    2022年10月5日7時11分 投稿
    【視点】

    コペルニクスが地動説に気づいてしまったときの「怖れ」を想像すると、背筋が凍ります。 とんでもないスクープを手に入れた新聞記者も同様ではないでしょうか。 早く発表したい欲求と、「これ、ほんとなのか?」という不安がせめぎ合います。 徹底的

    …続きを読む