日本の性教育に影落とす特異な規定 性加害のない社会は知識がつくる
論壇時評 東京大学大学院教授・林香里さん
ここ1カ月ほど、性加害を告発するニュースがメディアをにぎわしている。子どもたちが憧れる野球選手、大人気の俳優、一流企業の会長――3ケースは個別に論じるべきところもあるが、報道によれば一連の「事件」は、男性側が女性を自分の支配欲と性欲を満たす対象としてしか見ていなかったという点で共通する。こうした事件を繰り返さないためにはどうしたらいいか。性暴力には、人間関係構築への強い不安や歪(ゆが)んだ性のイメージが関係する。だとすれば、それをただす一つの方法に、子どもの頃からの適切かつ体系的な性教育の実施が考えられる。
子どもへの性暴力を取材し被害の実態を明らかにしてきた朝日新聞記者の大久保真紀は、自身の取材経験から、性教育が性被害を減らすと主張する(〈1〉)。性教育と言っても、性と生殖に関する知識の伝授にとどまらない。それは、一人ひとりの人権を尊重するという考えの上に立ったものであるべきだと指摘する。
大久保が指摘するような、性の問題を子どもの人権から説き起こし、よりよい人間関係を築くことを目指す教育は「包括的性教育」と呼ばれる。目的は、子どもたちの健康と尊厳を実現し、生きるための知識、スキル、態度、価値観を身につけさせて子どもたちをエンパワーメントする(能力を伸ばす)ことだ。
毎月、雑誌やネットに掲載される注目の論考を紹介する「論壇時評」。今月のテーマは、性加害と性教育です。日本の性教育を縛る特異な規定「はどめ規定」とは。支援者や当事者の言葉をたどりながら、論じていきます。
先進国では包括的性教育が主…