すべて忘れてしまった時、心に残るものは… 1冊の絵本から教わった

有料記事いつも、どこかで

若松真平
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 今から6年前、中川ちひろさん(40)は出版社を退職して、フリーの編集者になった。

 写真家やデザイナーの本など、これまで手がけた本は70冊以上。

 「横尾忠則全装幀(そうてい)集」(パイ インターナショナル)を出版したときは、美術家である横尾さんのアトリエに通いつめた。

 掲載する約900点の装丁すべてにコメントがほしいと求め、あまりの量に断られても、毎日のように詰め寄って「中川さんって、クレージーだよね」と笑われた。

 昨年、長男を出産する2時間前に横尾さんから送られてきた「しっかり、元気な赤ちゃんを産んで下さい。そのあとに本を産んで下さい」というメールは、今も大切に保存している。

 そんな中川さんが、あえて手がけてこなかったのが絵本だった。理由は「子どもは一番怖い読者」だから。

 まっさらな心に届いたものが、その後の人生を大きく左右するかもしれないという不安。

 「読者の気持ちが想像できないものは作れない」とも思っていた。

 でも、出産を経て、毎日のように子どもに読み聞かせをするようになると、違った思いが芽生えた。

 「今なら作れるし、今しかない」

 そんな気持ちが、あっという間に大きくなった。

ふいに訪れた出会い

 昨年11月、小学館の編集者らとのオンライン会議に参加していて、出会いが訪れた。

 海外の作家や出版社に取り次いでくれるエージェント会社とのミーティングだった。画面に映ったカタログの中から、1冊の絵本に目がとまった。

 タイトルは「I Remem…

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