手作り甲冑と城巡りで得た光 失明して知った「百聞は一触にしかず」
伊藤良渓
12キロ。自ら作った金属製の甲冑(かっちゅう)の重さだ。これを身につけて、各地の城跡を回る。
横浜市の西郷光太郎さん(45)は約10年前、視力を失った。
「こんなに疲れるのか」「ここは攻めにくいだろうなあ」。城跡をゆっくりと歩き回りながら、頭の中に地図を描いていく。坂道や曲がりくねった通路――。招かれざる客を防ぐための工夫を感じ取る。
苦行だった真夏の城跡
目が見えなくなってから初めて城跡を訪れたのが6年前。その時の経験を「苦行みたいだった」と振り返る。
真夏の日、ヘルパーに付き添いを頼んで、ある城跡に向かった。甲冑はどんな色をしていて、どんな作りをしていたっけ――。
汗だくになって城跡にたどり着いた。触れてみたいと思っていた甲冑は、すべて保護用のアクリルケースの中。点字つきの頒布物もなく、自分だけ取り残されたような気分になった。
でも、甲冑への興味は高まる一方だった。
「触れられないなら、自分で作っちゃえ」。その思いつきが、人生を変えた。
30代で失った視力と生きる希望
昔から、歴史は身近にあった…