新幹線開業控え 終着駅・敦賀に拠点施設開業

佐藤常敬
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 【福井】2024年春の北陸新幹線敦賀開業に向け、敦賀駅西地区に官民連携で整備を進めてきた拠点施設「TSURUGA POLT SQUARE(ポルトスクエア)『otta(オッタ)』」が1日、オープンした。

 敷地は約7900平方メートル。芝生の公園を囲むように、複合棟、飲食棟、ホテルなどを整備。駅側の建物には、公設民営書店「ちえなみき」や、未就学児の一時預かりなどの子育て支援施設「ここるん」が入る。

 飲食棟には、地元で水揚げされた魚を使った海鮮丼やワインが楽しめる和食店、フィッシュバーガー専門店などが入る。ホテルは、外国人観光客向けに広めの客室を中心にした9階建ての「ホテルグランビナリオTSURUGA」(131室)、コーヒーチェーン大手のスターバックスも嶺南で初出店した。

 8月30日の完成記念式典で、敦賀市の渕上隆信市長は「多くの人が目的地としても来てもらえるような魅力的な場所ができた。駅前に行けば『誰かがおったよ(いた)』というような、人と人のつながりが強くなり輪になって広がる、新しいにぎわい、交流の場所になることを期待したい」と話した。

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 オッタの中核施設としてオープンしたのが、全国的にも珍しい公設民営書店「ちえなみき」だ。新刊や古書、絶版本など約3万冊あり、従来の著者や分類別ではなく、「意味」や「中身」でつなげて並べるなど個性的な選書と書棚が特徴だ。

 施設の内装工事や書籍購入は敦賀市が担った。指定管理者として、書店大手「丸善雄松堂」と子会社の「編集工学研究所」(いずれも東京)が運営する。

 「ビジネス」や「文学」といったジャンル分けではなく、本の中身や切り口で結びつけ、単行本や新書、漫画、画集などを並べる。例えば、「生きものの不思議」「戦争の記憶」「サブカルにっぽん」など生命や歴史、文化といった世界を知る42のテーマの棚が並ぶ。

 「アメリカざんまい」の棚をのぞくと、先住民の歴史から始まり、「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切だ)」という人種差別に抗議する運動、ハリウッドやディズニー、メジャーリーグなどの本が続く。米国の光と影、栄枯盛衰を知れる仕掛けだ。

 地元の本好きな経営者や主婦らが、人生を変えた5冊を入れ替えで紹介していく「本人(ほんびと)」というコーナーは、「知り合いがこんな本を読んでいたのか」「この人どんな人だろう」と思い巡らせながら、本に接してもらうことが狙いだ。

 編集工学研究所の野村育弘・取締役CFOは「国内でも比類ない書店ができた。こんな本が世の中にあったんだと、思ってもいない一冊と出会ってほしい」と話す。

 新幹線開業後の地域の課題を研究する青森大学の櫛引素夫教授(地理学)は「新幹線の開業は目的ではなくまちづくりの手段。これだけ個性的な書店を地域づくりにどうつなげられるか注目したい」としている。(佐藤常敬)

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