石見銀山の旧商家 探検も出来る交流図書館に

杉山匡史
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 世界遺産石見銀山遺跡の中心部、国の重要伝統的建造物群保存地区にある大規模な旧商家「松原家住宅」(島根県大田市大森町)で、カフェや仕事場、書庫を併設した複合型図書館への模様替えが進んでいる。来春には住民や観光客らが集う新たな交流拠点として生まれ変わる。

 整備は3年前から構想された「古民家プロジェクト」で、県立大浜田、松江両キャンパスと地元の義肢装具メーカー・中村ブレイスが取り組む。両者は2019年9月に包括的連携協定を結び、学生らは同社所有の建物を拠点に遺跡の調査・研究をするなど交流を深めてきた。今回も2、3年生計19人が企画や広報など様々な役割を担う。

 1階の畳敷きの部屋にはちょうちん風の本棚を並べ、縁側と合わせて、くつろいだ雰囲気の中で読書ができる。書籍は学生らが交渉した著名人らに推薦してもらった200冊程度をそろえる予定。書庫は「間歩(まぶ)」(坑道)のようで明かりを抑え、子どもらが懐中電灯を手に絵本を探す。

 カフェには「圧倒的に魅力のあるスイーツ」を作って並べる方針。中庭には水遊びもできる浅めのプールを置き、蔵は学生が子どもらに読み聞かせをする空間として想定している。

 2階は仕事ができる共有オフィスとウェブ会議にも使える個室を作り、現場で働く人の休憩室も設ける。

 来年3月中旬に地元の人らを招く内覧会の後、4月にオープン。週末を中心に営業する予定だ。

 「まちをにぎやかにしたい」と中村ブレイスは、空き家だった古民家などを買い取って改修し、社員寮や飲食店、多目的施設に再生してきた。これまで63棟にのぼり、全て同社負担。今回も1億5千万円と見込む改修費は全額負担する。

 松原家住宅は、同社の中村俊郎会長(74)が約6年前に取得した。30年来の親交があった県立大の井上厚史・副学長=4月に急逝=から図書館構想を持ちかけられたのがきっかけだった。準備期間を経て昨夏から本格的に動き出した。

 中村会長は「井上さんは弟のようだった。大森町がまたにぎわうようになってくれたら。『生きた図書館』となるように若い学生たちは深い愛情を注いでほしい」と期待している。

 学生を指導する県立大の平井俊旭(としあき)講師(53)は、全国展開するスープ専門店などの事業戦略に関わり成功させてきた実績を持つ民間出身者だ。4月に内装工事が進む住宅を視察し、「自分たちが行ってみたいと思うものをつくる。どうしたら来てもらえるのかを考えながら取り組んでほしい」と助言した。

 井上さんの元で学んだ総合政策学部3年の束元(つかもと)裕弥さん(21)は「コロナ禍でも現地で学び体験できるのは貴重な機会。にぎわい交流ができる場にし、亡くなった先生のためにも成功させたい」と意欲を見せた。(杉山匡史)

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 松原家住宅 酢を醸造・販売していた有力な商家の一つで、旧朝鮮銀行総裁を務めた松原純一氏の生家として知られる。敷地約575平方メートル、木造一部2階建て延べ約592平方メートルの主屋のほかに蔵2棟が立つ。町内の大半が焼けた「大森大火」(1800年)の直後に建築されたとみられる。市の調査で間口が約20メートルあり、地元では珍しい漆喰(しっくい)仕上げの建物と判明した。

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