自転車ごとそのまま一緒に 各地で広がるサイクルトレイン

臼井昭仁

 自転車ごとそのまま一緒に電車に乗れるサイクルトレイン。9月3日から三重県の伊勢志摩地方の近鉄線で運行されるようになる。4月の試行で好評だったため本格導入が決まった。サイクルトレインは主に中小鉄道で広がってきたが、利用者増を狙い、大手私鉄も採り入れつつある。

 近鉄のサイクルトレインは平日が鳥羽・志摩線(五十鈴川―賢島)で運行する普通列車で、土日祝日には山田線も加わり、松阪―賢島間(57・6キロ)を行き来する。時間帯は平日は午前9時台~午後2時台。土日祝日は午前8時台~午後5時台の上下44本と4月の試行時より増やした。

 いずれも通常の普通列車の2両目に、自転車を解体せずに乗れる。追加の料金は要らないが、自転車を固定するひもは必要。

 近鉄名古屋運輸部営業課によると、4月は松阪―賢島で計9日の試行だったが、雨が多かったにもかかわらず、利用台数は約300台あり、トラブルもなかった。その後もサイクリング愛好家や沿線自治体から再開を求める声が多数寄せられたため、9月からの通年実施を決めたという。

 もともと沿線の松阪市、明和町、伊勢市、鳥羽市、志摩市では、誘客を図る一環として自転車を貸し出すサービスをしていた。志摩市観光協会の担当者は「駅からバスの本数が少ないこともあって自転車を使った観光地巡りの需要は高かった」と近鉄の決定を歓迎する。

 近鉄にとっても、コロナ禍で激減した旅客収入を増やすための取り組みにつながる。担当者は「サイクリング愛好家たちに乗ってもらうことで新たな鉄道利用層の開拓を図りたい。他の路線での導入は状況をみて検討したい」と話している。

 同社によると、計500キロの路線網を持つ近鉄にとってはサイクルトレインを本格導入する唯一の路線。過去に同社が運営していた養老線(現・養老鉄道《三重~岐阜県》)以来、2例目になるという。

 サイクルトレインは、二十数年前、利用客が比較的少ない地方鉄道で導入が始まった。誘客のほか、環境にやさしいといったPRポイントもあり、全国に広がっていった=表。県内では、三岐鉄道が1997年、伊賀鉄道が2008年に始めた。

 大手私鉄では、首都圏に路線を持つ西武鉄道が多摩川線(8キロ、東京)で昨年7月に試行、10月から本格導入に至った。土日祝日には終日利用ができる。広報部の担当者は「1カ月間の利用件数は平均1千で年齢層は20~60代以上と幅広く、1年経って移動手段として生活に定着しつつある」と説明した。

□サイクルトレインを導入している鉄道(一部)

・青森県 弘南鉄道 運行は4月~11月

・福島~宮城県 阿武隈急行 土日祝日は終日利用可

・群馬県 上毛電鉄 同

・愛知県 豊橋鉄道渥美線 同、追加料金が必要

・三重県 三岐鉄道三岐線 平日は利用区間制限あり

・三重県 伊賀鉄道 土日祝日は終日利用可

・滋賀県 近江鉄道 同 ※八日市線を除く

・長崎県 島原鉄道 運行は土日祝日のみ ※予約制

・福岡県 西鉄天神大牟田線 土日祝日限定で特急のみ、追加料金が必要

・熊本~鹿児島県 肥薩おれんじ鉄道 平日・土日祝日とも利用は午前9時~午後3時

※ホームページなどから…

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この記事を書いた人
臼井昭仁
半田支局長
専門・関心分野
農林水産業、運輸、過疎問題