フランスの厳しいカルト規制 その「過敏さ」が映す日本の「鈍感さ」

有料記事元首相銃撃 いま問われるもの

聞き手 編集委員・塩倉裕
[PR]

 宗教団体による問題行為に政治や社会はどう対応すればいいのだろう。旧統一教会の問題をきっかけに、日本でも議論が動き始めている。カルトへの厳しい規制を進めてきた国として知られるフランスの経験から学べることは何か。同国のカルト規制に詳しい憲法学者の中島宏・山形大学教授に聞いた。

    ◇

 ――旧統一教会の問題が注目されたことで、カルト的な宗教団体への関心が高まっています。フランスではカルトに対する厳しい規制が行われている、と言われますね。

 「ええ。フランスは厳しいセクト対策がある国として知られています。セクトとは、日本で言うカルトのことです。官民一体となった反セクト運動が盛り上がった結果として、2001年にはセクト対策を目的にしたセクト規制法まで作られています」

 ――なぜ、カルト規制の機運が高まったのですか。

 「主なきっかけは、1990年代にカルト教団による衝撃的な事件が世界各地で相次いだことでした。93年には米国で、施設に立てこもった約80人の信者が警察との銃撃戦の末に焼死しました。94年にはスイスなどで計50人以上が集団死する事件があり、95年3月には日本でオウム真理教による地下鉄サリン事件が起きています。人命にかかわる事件が相次いだことで、カルトを根絶しなければという危機感が高まったのです」

 「ちなみに反カルトの運動自体は、それ以前からありました。50年代以降に進んだ既成宗教離れや学生運動の退潮を背景に、セクトに引かれる若者たちが増え、家族や既成宗教による反対運動が広がっていったのです。」

 ――フランスでの規制は、具体的にどう始まったのでしょう。

地下鉄サリン事件と「10の指標」

 「地下鉄サリン事件が起きた9カ月後に、国会のセクト調査委員会が重要な報告書を提出しました。直後に公表もされています。報告書には、ある団体が『セクトかどうか』を判断するための『10の指標』が示されていたほか、173に上る具体的な団体名が書かれたブラックリストも盛り込まれていました」

「10の指標」やブラックリストで始まったフランスのカルト規制。勢いは加速し、そのあと、世界的に注目された「セクト規制法」の制定にまで突き進みます。ただし、規制強化の道筋は決して一直線ではありませんでした。セクト規制の実像は? そして、フランスの模索から映し出される日本の姿とは? 憲法学者・中島宏さんの考察は続きます。

 ――どのような指標が挙げられていたのですか。

 「報告書は10種類の問題行…

この記事は有料記事です。残り3872文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません