第1回「保守派との関係でもたない」 夫婦別姓の調査めぐり政府内で対立

阿部彰芳 戸田政考 三輪さち子
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 選択的夫婦別姓制度(別姓制度)への賛成が過去最低となった政府の世論調査をめぐり、質問作成過程で質問内容の大幅な変更を提案する法務省側に対し、内閣府側が繰り返し修正・削除を求めたが、「保守派との関係でもたない」などとして拒否されていたことが朝日新聞社の情報公開請求でわかった。旧姓の通称使用拡大を求める別姓制度に慎重な自民党の一部勢力への配慮とみられる。

連載「夫婦別姓 対立の120日」(全8回)はこちら

  内閣府が3月に発表した夫婦別姓に関する世論調査。賛成の割合が、過去最高だった前回から一転して過去最低となり、担当閣僚の野田聖子氏が結果に疑義を呈する事態に。何が起きていたのか。内部文書から読み解く。

 この調査は「家族の法制に関する世論調査」。名字に関する意識などを尋ねる目的で1996年から始まった。法務省民事局が、女性活躍の政策を担う内閣府男女共同参画局(男女局)と事前協議した上で質問内容を作成してきた。

 調査で注目されてきたのが、夫婦が希望すれば結婚後に名字を変えずにすむ選択的夫婦別姓制度の賛否で、別姓制度をめぐる政府内や国会での議論の土台となってきた。6回目となる今回の調査では、別姓制度の導入賛成は28・9%。賛成が過去最高だった前回2017年調査の42・5%から急落して過去最低となった。別姓制度の賛成が減った一方、増えたのは旧姓の通称使用の法制度だった。

 開示文書によると、法務省は昨年7月、例年より1年前倒しで調査実施を決定。当初案では、従来の①現状維持②別姓制度③旧姓の通称使用の法制度――の三つから選ぶ質問を分割し、通称使用の拡大に関する法整備が必要か独立して賛否を問う質問を新設した。

 これに男女局側は、政府内で通称使用の法制度に関する議論は進んでいないなどとして反発。法務省側は、分割は取り下げる一方、質問に添える参考資料の「表」を作成し、通称使用の法制度については「旧姓を通称として幅広く使うことができるようにする法制度」と表現した。

 男女局側は「幅広く」との表現に「世論をミスリードする」と修正を要請。しかし、法務省側は「『幅広く』を落とすことは保守派との関係でもたない」などとして修正を拒否。昨年12月から調査を実施し、今年3月に結果が公表された。

 法務省幹部は朝日新聞の取材に、「色んな方面から批判がないようにニュートラルにすべきだという姿勢で調査をしたに尽きる」と説明している。

 東京大の谷口将紀教授(現代日本政治論)は「本来は、別姓制度に賛成か反対かと、旧姓の通称使用の拡大に賛成か反対かという2問に分けて聞いた方が良い」と指摘。自民党議員らへの配慮がうかがえる点について、「論外だ。世論調査に対する国民の信頼を損ねてしまっている」と話した。

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    佐藤武嗣
    (朝日新聞編集委員=外交、安全保障)
    2022年8月22日7時34分 投稿
    【視点】

     私は大学で数理統計学を専攻し、朝日でも世論調査室にも籍を置いたことがあります。世論調査で重視し、価値を持つのは、①世論の瞬間風速を測る、②時系列で世論の推移を見る、という2点です。  選択的夫婦別姓について、世論がどう変化しているのか、

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