子どもがゲームをやめられない 隠れている4つの理由を考える
夏休み、子どもがゲームばかりしてうんざりしているご家庭も多いのではないでしょうか。子どもたちはなぜ、ゲームをやめられないのか。どうしたらやめられるのか。2回にわたって紹介します。
リョウさんは、子どもの夏休みがストレスでなりません。
なぜなら、毎日のように娘がゲームをしているからです。
最初は1日30分間までと約束して買い与えましたが、リョウさんの目を離した隙にこっそりやっているようなのです。
リョウ「またゲームやってるの? もう30分間超えたよね?」
娘「さっきは途中で昼ごはんになったから、あと10分あるもん」
リョウ「ほんとに? じゃあ10分経ったら終わりだからね」
(10分後)
リョウ「もう10分経ったよね?」
娘「えーー、今終われないもん。せっかくここまできたのに。ね、ここまでやらせて」
リョウ「いっつもそうじゃん! 約束守ってない!」
こんなやり取りから、いつも親子げんかになってしまいます。リョウさんはこんな毎日にうんざりしています。
ゲームでなくとも、ネット動画、スマホの長時間使用……などを巡り、こんな光景が多くの家庭で見られるのではないでしょうか?
このコラムでは2回にわたり、子どものゲーム(スマホ)について、
① なぜゲームはやめられないのか
② ゲームとの上手な付き合い方
という視点から具体策をご紹介しようと思います。
やめたいのにやめられない行動は大人にもある
子どもにゲームをやめなさいと言う時、私たち大人にも同じ仕組みがあることを忘れてはいけません。私たちもお酒やタバコ、夜ふかしに甘い物などをやめたいと思いながらもやめられないのです(例外的に、自分に厳しく健康的な生活を送っていらっしゃる読者の方も多いかと思います。すみません)。
なぜ人間は頭では悪いとわかりながらもその行動がやめられないのでしょうか。
私たち人間は賢い生き物で、その行動のメリットがデメリットを上回らなければ、その行動をし続けないことがわかっています。
つまり、お酒やタバコや夜ふかしに甘い物がもたらすデメリット(例:体に悪い)よりも、メリット(例:一瞬の快楽や現実逃避)が大きいのでやっぱりやめられないということです。
子どもにおいては、脳の成長の途中ですから、どうしても「短期的なメリットに飛びつく」習性があります。これは前頭葉の抑制が未熟なので仕方ないのですが、短期的なメリット(例:ゲームでレベルが上がる)よりも長期的なデメリット(例:夏休みの宿題が終わらない)に目を向けられないからこそ、親から見れば明らかにデメリットが大きい行動を平気でし続けてしまいます。
大人よりも子どもの方がゲームやスマホにのめり込みやすい原因の一つはこれなのです。
一方で、大人でも子どもでも、やめられない行動の背景には「メリット」があり、それに注目するとその行動がやめやすくなることが知られています。
これは心理学では「機能分析」と呼ばれるものです。
例えば、タバコをやめられない人がいたとします。その人がタバコを吸うメリットの一つが「ニコチンを得られる」だとしましょう。この人にいくら「肺がんのリスクがある」と説得しても、「ニコチンが欲しい!」と体が思えば、この人はタバコをまた吸いたくなります。やめるが難しいのは、「ニコチンが欲しい!」という欲求を無視して封じ込めねばならないからです。
そこで登場するのがニコチンパッドです。これは「ニコチンが欲しい!」と言う欲求を無視せず、満たしてあげています。これでタバコに手を出さなくてもよくなるので禁煙に効果があるのです。
これをゲームに例えてみましょう。
ゲームをするメリットが、仮に「クラスのお友達と一緒にプレーする」という社会的な理由だったとします。すると、この子どもに「我慢しなさい。ゲームはダメ」と禁止だけするよりも、「クラスの友達とゲーム以外の方法で仲良くするにはどうしたらいいか」を一緒に考えてあげた方が、何倍もゲームをやめやすくなります。
こんなふうに、まずはやめられない行動のメリットを明らかにすることが、やめるための第一歩なのです。
具体的には、「ゲーム自体も面白いだろうけど、やってる時って本当は何が欲しいの?」といった聴き方をすると、隠れたメリットが掘り起こせるかもしれません。
でも、小学生だとそんなことを言語化できない場合が多いでしょう。
そこで、よくあるゲームがやめられない四つの理由を紹介して、「どれが近そう?」と尋ねてみることをお勧めしています。
<よくあるゲームがやめられない四つの理由>
1 達成感がすごい!
2 続きが気になる
3 誰かと一緒にでる/注目される
4 ひまつぶし(現実逃避)
ひとつずつ解説していきます。
1 達成感がすごい!
ゲームはかけた時間、磨いた技、課金した分だけ、即座にレベルが上がったり、強くなったりします。
現実世界では、努力に見合う報酬が即座に得られることはなかなかありません。
野球の練習をそこ10分がんばったからといって、すぐにレギュラーになれるわけではないし、英語の勉強を数年がんばったとしても、ペラペラになれる人はなかなかいません。
こんな現実世界と対照的に、ゲームの世界では比較的簡単に達成感を得ることができます。
まるで自分がスーパーヒーローになったかのように感じられます。
これが私たちをとりこにするのです。
ゲーム以外でも言えるかもしれません。
SNSの中では、自分の良い面だけをみせて、「いいね!」をもらって、リア充で好きな自分になれるというのもそれに近いでしょう。
2 続きが気になる
動画配信サービスの中では、過去に見逃した連続ドラマをまとめてみることができます。漫画も映画もそうでしょう。また、ネット動画は一つずつは10分程度の短いものが多いですが、次々に関連動画をおすすめされてしまいます。
このような状況で「続きが気になる!」とやめられなくなるのは大人もうなずけるでしょう。
特になんらかの「ストーリー」のあるものに関しては、人は引き込まれてしまいます。ある種の共感性や好奇心のようなものが働いてしまうのです。「手作り職人の試行錯誤の末、生み出されたこの作品」が売れる理由も同様です。私たちはストーリーに弱いのです。
3 誰かと一緒にでる/注目される
クラスメートと「じゃあ、今日も夜7時にゲームで待ち合わせね」なんて約束をして、一緒にゲームの世界を旅する子どもたちが増えています。中には、ゲームそのものに興味がなくても、友達と交流したいからしているという子どももいるほどです。
また、オンラインゲームで、知らない人と一緒に戦うタイプも人気です。ゲームが強くなると、ファンが増えて、カリスマ的な存在になれるそうです。ファンの中にはそのカリスマに、いろんな贈り物(オンラインで使える金券代わりになるパスコードなど)をすることもあるとか。この注目は病みつきになりそうですね。
4 ひまつぶし(現実逃避)
子どもに「なんでゲーム(スマホ)ばかりしているの」と問うと、「ひまつぶしだよ」と答えることもあるでしょう。実はこの答えは、大人気の回答です。便利なんです。うそをついているわけではなく、結構ほんとだったりします。
私たちは本来なら「ひま」が怖くないはずです。ゆっくりできるし、何をしてもいい自由時間だからです。
でも「ひまをつぶしたい」と思ってしまうのはなぜでしょう。
退屈が嫌いだから? 刺激が欲しいから? 時間がもったいないから?
何も没頭するものがないと、困るからでしょう。
何かに没頭していれば、嫌な気持ち、もやもやしたもの、見たくない現実から目をそらすことができるのです。ひまになってしまうと、ごまかせなくなります。これまでふたをしていた、嫌な現実がつきつけられてしまうのです。
たとえば学校でいじめにあっている場合、そんな自分の状況を忘れたいぐらいつらいかもしれません。そうした気持ちを一瞬でも忘れたいからゲームやスマホに没頭しているかもしれません。
中には、「明日の試験勉強が嫌すぎる」という理由で朝までゲームをし続ける子どももいます。
大人だとゲームの代わりに、酒やタバコ、ギャンブルに甘いものがくるかもしれません。
お子さんに四つを提示して、尋ねてみましょう。
「どれに近いかな? ゲームそのものも楽しいやろうけど、他にも欲しいものがあったかもね」
中には、四つとも当てはまるという子どももいるでしょう。
まずは大人と一緒に、やめられない理由を選び、ほんとに欲しかったものに目を向けてみましょう。
ただ「ゲームをやめなさい」と叱るより、やめられない理由やほんとに欲しいものに耳を傾ける方が、お子さんともスムーズにやりとりができるはずです。
さあ、こうしてゲームやスマホをやめられない理由が明らかになっただけでは、やめることはできません。次回はこの理由別対処法をお伝えします。
(次回は明日、8月13日に配信予定です)
◇
もっと子どもの時間管理について知りたい方は「マンガでわかる 精神論はもういいので怒らなくても子育てがラクになる「しくみ」教えてください」(主婦の友社)も参考になさってください。https://www.amazon.co.jp/dp/4074507668/(アピタル・中島美鈴)…
連載上手に悩むとラクになる
この連載の一覧を見る- 中島美鈴(なかしま・みすず)臨床心理士
- 1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。