怒り全面、苦悩なし 室町時代の古作の能面「般若」のすごみ

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金剛流二十六世宗家・金剛永謹

 「能面のような表情」といえば、「無表情」という意味で使われることが多いのですが、本当に表情はないのでしょうか。そんなことはありません。むしろどの能面も表情豊かで、変化に富んでいます。

 約200の能面を所蔵し、京都を拠点にする能楽金剛流二十六世宗家・金剛永謹(ひさのり)さんに、金剛家よりすぐりの能面を紹介してもらいます。永謹さんは、能面に精通していることでも知られています。

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 「般若」の面は鬼女を表し、「道成寺(どうじょうじ)」「葵上(あおいのうえ)」「黒塚」「紅葉狩(もみじがり)」などで使用されます。般若坊という室町時代の面打が造形を完成させ、それ以降、能面として定型化されたと言われています。

 定型化された般若は、上半分が悩み、苦しみ、悲しみ、下半分が怒りという、二つの表情を持っています。下を向くと、悲嘆の部分が強調され、上を向けば、威嚇のすごみが際立つという非常にすぐれた演出効果を生みます。

 今回紹介する般若(丈19・8センチ、幅13・2センチ)は、定型化されるより前の古作と考えられます。おそらく室町時代でも初期で、まだ「鬼女」などと呼ばれていた頃のものです。作者は不詳です。

 面の上半分は、苦悩よりも怒…

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