第114回チェルノブイリ原発、過酷な36日 職員が明かす危機回避の舞台裏

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ウクライナ北部スラブチチ=高野遼
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 白黒の監視カメラ映像に、黒い制服姿の男たちが映し出された。

 ウクライナ北部のチェルノブイリ原発に、ロシア兵が入った瞬間だった。

 2月24日、午後3時45分ごろ。

 原発の警備室でモニターを見つめていたリュドミラ・コザクさん(45)は覚悟を固めた。

 「『ゲスト』がフェンスを乗り越え、ゲートを破壊して入ってきた。しばらく自宅には帰れないだろうと悟りました」

36年前、未曽有の爆発事故で世界を震撼(しんかん)させたチェルノブイリ原発が今年2月24日、ロシア軍に占拠されました。それから解放までの36日間、100人以上の職員が占領下で原発を守り続けました。そこでは何が起きていたのか――。取材に応じた3人の職員の証言から振り返ります。

数百人のロシア兵…でも撃ち合いできず

 侵攻初日にやってきたのは、黒い制服を着たロシア軍の特殊部隊だった。

 やがてトラックや戦車に箱詰めの兵器を積み、数百人のロシア兵が乗り込んできた。彼らは原発職員に対し、ロシア兵のことを「ゲスト」と呼ぶよう求めた。

 ロシア軍侵入の一報は、警備室から、上司を通じて原発に常駐する170人超のウクライナ兵(国家警備隊)に伝えられた。

 だが抵抗の余地はなかった。撃ち合いをしてはならない場所であることは、誰もが分かっていた。

 やがて、原発施設内にアナウンスが流れた。

 「原発は占拠されました」

 「職員はロシア軍の指示に従うように」

 コザクさんは振り返る。「混乱状態でした。何をすればよいのか誰にも分からなかった。災害時のマニュアルはあっても、侵攻への備えなんてなかったですから」

「電源喪失」という最大のピンチに、職員がとった「賭け」とは。若いロシア兵たちの信じられない「暴走」とは。記事の後半で紹介します。職員が隠し撮りした動画もあります。

机の上で2時間睡眠、強いられた勤務

 ロシア軍が占拠した原発で、職員たちは業務を続けるよう命じられた。

 当時、警備室ではコザクさんを含めて4人が働いていた。

 1人が2時間寝ては、6時間…

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