復旧しても赤字…豪雨後の鉄道、再建難航 地方路線の維持は可能か
九州を襲った豪雨で断絶した鉄路の再建が難航している。採算割れが長年続くJR肥薩線は、2年前の豪雨直撃で今も大半が運休したまま。地元自治体は再建を望むが費用は膨大で、復旧しても赤字運営からの脱却は見通せない。細る一方の地方で鉄路の維持は可能なのか。鉄路を諦めた地域ではさらなる衰退への懸念も広がる。
SLも走る観光の「生命線」
熊本豪雨から2年が経った今月初め、肥薩線の被災現場を訪れた。つぶれた線路や鉄橋を覆う土砂から、新緑が芽吹いていた。
熊本県南部の八代市と鹿児島県霧島市を結ぶ肥薩線は明治期に開通し、日本三大急流の球磨川沿いを走る観光列車「SL人吉」は長年、鉄道ファンを魅了してきた。
だが、2020年7月の豪雨で球磨川があふれ、国の近代化産業遺産群に指定された橋梁(きょうりょう)など約450カ所が被災。総延長の7割にあたる八代(熊本)―吉松(鹿児島)の86・8キロで運休が続く。
熊本県や沿線自治体は、流失した鉄路の再建を観光再生の「生命線」と位置付けて復旧を熱望する。だがJR九州は今年3月、復旧費を約235億円と試算し、「経験したことがない数字」と強調するなど再建に慎重な姿勢を示している。
鉄路再建をめざす県は、復旧費の減額と国からの財政支援でJR九州の負担を圧縮し、再建への道筋を付けようと躍起だ。
国は5月、肥薩線と並行して走る道路の復旧とセットにしたり、他の補助金と組み合わせたりすることで、JR九州の負担を最大210億円圧縮し、25億円に減額できると提示。自治体が設備や土地を保有し、鉄道会社が列車を運行する「上下分離方式」を採ることなどを条件とした。
肥薩線に接続し、豪雨で被災した第三セクター・くま川鉄道の復旧時も上下分離方式を採用し、復旧費を国と沿線自治体が負担することで25年度に全線開通する予定だ。
肥薩線の沿線自治体や県は、上下分離方式を「将来にわたって鉄道運行を支える仕組み」と位置づけ、国はJR九州に対し、再建への働きかけを強める。
沿線住民は70年で8割減
だが、被災区間は豪雨前の19年度に約9億円の営業赤字を計上。被災区間のうち熊本県内の八代―人吉駅(同県人吉市)間は1日平均の利用者が同年は414人で、ピーク時の1987年から8割減った。
さらに2020年以降、コロナ禍が経営を直撃したJR九州は、採算性を重視する姿勢を強める。沿線の熊本県球磨村の人口もこの70年ほどで8割近く減り、地域の利用者減が反転する見通しは立っていない。
肥薩線の復旧を望むのは主に人吉駅前の旅館など恩恵を受ける観光業関係者の一部にとどまり、地元では必ずしも鉄路再建の機運は高まっていない。通勤や通学、買い物など暮らしの足を支えるのは車で、ひしゃげたままの線路を横目に住民の多くは「肥薩線が復旧しても乗ることはない」と口をそろえる。
「バス」転換受け入れた地域は
地域が先細りを続けるなかで、鉄路の再建は現実的なのか。豪雨災害を機に別の道を歩む地域もある。
熊本豪雨の3年前、福岡県の…