「現実主義」求めた保守 敵・味方の峻別が深めた溝 安倍晋三元首相
小野甲太郎
評伝
「政治は可能性の芸術だからね。いかに可能性を現実のものにしていくかが政治なんだよ」
2013年3月。環太平洋経済連携協定(TPP)への交渉参加を表明する意向を固めた夜、安倍晋三氏は私にそう語った。2度目の首相に返り咲いたものの、参院では与党が少数の「ねじれ国会」。政権を安定させるため、その年の7月の参院選でねじれ解消を目指していた時期だった。
自民党内からはTPP参加への異論が噴出していた。安倍氏は「菅義偉さんや麻生太郎さん、石破茂さんもみんな参院選を終えてからの方が良いと言っていた。だけど、おれは逆だと思ったんだ」と語り、その数日後、正式に交渉参加を表明した。参院選では経済政策「アベノミクス」を前面に掲げて勝利し、長期政権の基盤を築いた。
「敵」と決めると手厳しいが、「味方」と認めると強い結びつきを示した。会食では早口で話し、冗談を飛ばして場を盛り上げた。その明るさと情熱に、近くで安倍氏と接した人は引きつけられた。
「見向きもしなかった人たちが…」感じた孤独
政治人生は、ジェットコース…