「男の祭り」の選挙変えたくて 「男47・女1」熊本からの挑戦

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堀越理菜 大貫聡子
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 候補者男女均等法の施行から4年。この参院選の女性候補者の割合は、戦後に実施された国政選挙では初めて3割を超えた。全国でも際だって女性議員が少ない熊本でも、「男の祭り」である選挙の風景を変えようと挑戦が始まっている。(堀越理菜、大貫聡子)

 0から1へ――。

 19年の南小国町、20年の西原村、21年の南阿蘇村。近年、郡部を中心に自治体初の女性議員の誕生が相次いでいる。女性議員が一時いなかった南関町や和水町も今年、女性が当選した。

 19年4月に初当選した南小国町議の森永一美さん(38)は、長女の「孤育て」が立候補のきっかけだった。自然豊かな環境で子育てがしたいと14年に南小国町へ移住したが、知人もおらず夫が仕事から戻るまで一人で子どもに向き合う日々。虐待や無理心中のニュースを見て「自分もそんなに遠いところにはいないな」と感じていた。

 次女を出産後、親しくなったママ友たちと集まった時、誰からともなく「この2年間、夫以外の大人と話してない」「子育てがこんなにつらいとは思わなかった」と告白し出した。

 最後はみんなで号泣した。「自分だけじゃなかったんだ。もっと早く話せば良かった」と思う一方で、「これは私たちのせいなのか。社会や仕組みに問題があるのでは」と感じた。その後、自宅に配られた議会広報で「子どもは褒めて育てるべきだ」という男性議員の発言が目に入った。思わず「みんな、そうしたいんだよ!」と叫んでいた。

 制度を決める議会に子育て世代の声が届いていない。夫に話すと、夫は「手をあげなっせ」と立候補を勧めてくれた。

 「選挙は男の祭りだから」。心配から反対する人もいたが、立候補した。

 選挙活動を助けたのが山鹿市議の服部香代さん(60)だ。選挙戦最終日には選挙カーに同乗し、町内各地で応援演説した。

 服部さん自身、市男女共同参画審議会副会長だった時に市議会を傍聴し、市の幹部も市議も全員男性という事実に衝撃を受け、立候補を決意した。

 現在は女性初の市議会議長を務める。「少なくとも県内の女性ゼロ議会をなくしたい」と自治体を超えて活動してきた。

 現実として、子育ても介護も担い手は女性が多い。「問題解決のヒントは現場にある。まず声を上げる。政治に声を届ければ社会は絶対変わる」と話す。

 森永さんは当選後の20年3月に長男を出産。議員として、小学生の放課後クラブの拡充や乳幼児の一時預かりの要件緩和などに取り組んでいる。「子どもたちが大きくなった時、議員という仕事が将来の選択肢に入っているとうれしいです」

女性議員の孤立を防ぎたい

 4月、熊本県内の地方女性議員26人が超党派で「くまもと女性議員の会」を立ち上げた。会長に就任した合志市議の坂本早苗さん(71)は「女性の声を届ける代弁者が少ない。この状況を変えなければだめだと思った」と話す。

 内閣府の統計によると熊本県議会議員に占める女性の割合は4・2%(2021年8月1日現在)で、全国の都道府県中ワースト2位。現在は1人減って48人中1人と、全国でもっとも女性議員が少ない都道府県の一つだ。県内の市町村をみても女性議員のいない議会は10町村(21年4月1日現在)にものぼる。

 県選挙管理委員会によると、衆議院の選挙区で当選した女性議員は県内では1946(昭和21)年に当選した山下ツ子(つね)さん以降いない。山下さんは戦後、女性が初めて国政に参加した総選挙で誕生した全国39人の女性議員の一人だった。

 発足のきっかけは坂本さんが十数年前から始めた有志による勉強会だった。合志町議として初当選した90年、子育て支援政策を進めたいと考えたが、関心が重なる議員はおらず、一般質問でどう政策提言をしたらいいのか、戸惑うことが多かった。

 他の女性議員も孤立しているんじゃないか。十数年前から有志で他自治体の状況など情報交換し続けてきた。コロナ禍でオンライン会議が一般的になったことから遠隔地に住む多忙なメンバーも参加しやすくなり、議論は一気に深化。正式に会として立ち上げることにした。

 メンバーの一人、山都町の吉川美加さん(63)も2013年、町で初めての女性議員として当選した。夫とともに両親の介護を担うが、昨年まで町議会会議規則には議員の欠席事由として育児も介護も明記されていなかった。「介護も育児も女性が担うことが多い。女性が政策立案に関わることの重要性を痛感した」と話す。

 熊本市議の古川智子さん(44)も「会派で女性は私だけ。同じ目線で話せる人がいないことに欠乏感を持ってきた」と話す。「女性議員が増えれば、女性の声が政治に反映されやすくなる。経験しているから分かる女性の痛みや大変さがある」。

 県議の岩田智子さん(60)は、自身が議会唯一の女性となっていることについて危機感を募らせる。

 「視察でも、職員を含めてその場に私しか女性がいないという状況があった。ものすごく偏っている」

 若年層が進学や就職を機に熊本を離れる傾向が続いている背景には、性別による役割分担意識の強さがいとわれているのではないかといい、「女性議員が増えない理由も同じではないか」とみる。「本来は半数は女性であるべきだと思うが、まずは3割。なんとか増やしたい」

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