参院選の公示が1週間後に迫る6月中旬の夜、村の比例票を動かす「キーマン」は、マウンドに立っていた。
大人が4チームに分かれて戦うソフトボール大会のナイターゲーム。緩急をつけて打ち取るスタイルのエース投手は、54歳。同世代から「ヤマさん」と呼ばれる、村で一人だけの郵便局長だ。味方がエラーをしても、「一つずつ(アウト)取ってこー」と励まし、チームのムードを盛り上げていた。
高知県大川村は人口363人(5月末時点)。離島を除く自治体では、国内最少の筆頭格だ。吉野川の源流に近く、1960年代には約4千人が暮らした。しかし、70年代には銅鉱山が閉鎖され、役場を含む中心部はダムの底に沈んだ。今では村民の4割を65歳以上の高齢者が占める。
そんな村で3年前、参院選の比例区で投票した3人に1人が同じ候補者名を書いていた。地元の出身でもなく、ゆかりがあるわけでもない相手は、任意団体「全国郵便局長会」の組織内候補。組織の実情も知らない村民を動かした原動力は何だったのか。
村に春の訪れを告げる「さくら祭」を手がける川上千代子さん(69)も、郵便局長会の候補に投票した一人だ。祭りの案内状を発送する相談などをきっかけに、16年の参院選のころ、郵便局内でヤマさんから「候補の後援会に入って」と頼まれたという。
「とってもいい人なの。ほかに応援する人もいないから、『お願いします』『はい、わかった』って感じ。信頼するヤマさんの推薦なら、っていう人は他にも多いのでは」
全国郵便局長会が参院選の比例区に擁立した候補が近年、得票を大きく伸ばしています。小泉純一郎政権の郵政改革などで一時は勢いを失いましたが、自民党との復縁後は右肩上がりに。前回2019年には、自動車総連や電力総連など他組織の候補の倍以上の得票で全国トップ当選しました。圧倒的な集票力の理由はなにか。前回、局長会候補の得票率が全国トップの36%に及んだ高知県大川村を訪ねました。
一人暮らしの秋山田鶴子さん…