参院選で問われるものは 静岡県立大・津富宏教授に聞く
静岡で4年前から「政治カフェ@しずおか」という対話の場が続いている。「憲法とは何か」など、あらかじめテーマを決めて互いに自分の考えを出し合い、自身の政治的な見解を深める試みという。カフェの世話人を務める静岡県立大教授の津富宏さん(62)=社会学・犯罪学=に参院選の争点や課題を聞いた。
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――2018年から「政治カフェ」を開催し、半年に1回の割合で、静岡市内のカフェを会場にしたり、ビデオ会議システムを活用したりして、20人ほどが集まっています。
「17年の都議選の応援演説で、当時の安倍晋三首相が東京・秋葉原で、首相批判を繰り返す聴衆に『こんな人たちに負けるわけにはいかない』と発言したのがきっかけだった。安倍首相に対する支持・不支持で分断され、対話する機運が全くなかった。政治は社会の意思決定の場として重要なものの一つ。政治について、安全に話せる場が必要だと思った」
「民主主義は意見交換を重ねるサロンから始まると考えている。自分たちの暮らしをきちんと話す時間や場を作るのが、地域を強くしていくのではないか」
――最近はどんなことをテーマに話し合いましたか。
「3月下旬に、『今の政治の対立軸とは何か?』をテーマにした。昨年秋の総選挙で日本維新の会が躍進した。維新は『自民の補完勢力』と指摘される一方、『一般人の感覚に近い』という声もあり、もはや左右の対立軸はなくなったのではないか、という問題意識を持っている」
「カフェでは『自分を中心に考えるのか、それとも社会を中心に考えるのか』という意見があった。自分のことで精いっぱいになっている社会の表れともいえる」
――最近は与野党の境も分かりにくくなっており、有権者はどう投票したらいいのか迷います。
「『地方』と『中央』が対立軸の一つになるのではと思う。静岡ではまさに、リニア中央新幹線の建設問題がそうだ。『中央』の国は(3兆円の財政投融資を投じ、国家プロジェクトとして)推進しているのに対し、『地方』の静岡は静岡工区について、トンネルの掘削による大井川の流量減少などを懸念している。水の利用者は農業や工業など多岐にわたって影響が大きい。下から上に声を上げていく民主主義がやれるかどうかだ」
――参院選では静岡のローカルな問題だけでなく、全国的な課題にも向き合う必要があります。
「グローバリゼーションへの対抗軸をきっちりと打ち出して欲しい。グローバル化の進展に伴い格差や環境問題など負の側面が表れてきた。新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)もそうだ。コロナで浮かび上がった世界のひずみをどう総括するか。コロナ対策は各国で差があったが、『こういうやり方は良くなかった』や『この方法は良かった』と議論することは、民主主義の成熟のために必要だ」
――争点や課題を浮かび上がらせるにはどうしたらいいですか。
「原発の是非や環境変動など、世界には様々な課題がある。一見、バラバラに見えるが、互いに関連しあっているのではと思う。対立軸を整理して取り出し、複雑な社会を分かりやすく見せるのは学者やメディアの仕事であると同時に、政治の役割でもあるはずだ」
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つとみ・ひろし 東大教養学部教養学科卒業。多摩少年院や法務省矯正研修所教官などを経て、2002年に静岡県立大国際関係学部助教授(現・准教授)、11年に教授。犯罪者・非行少年の立ち直り支援や青少年の社会参加支援が主な研究テーマ。