第1回「解像度」の低さがナゾ 若手記者から見たメディアの「若者像」
20代の人たちは、「解像度」という言葉を上手に使う。スマートフォンなどの画面にドット(点)がどれだけ細かく敷き詰められているかの度合いで、高いほどより細部まで描き出せていることを示す。
ふだんの会話では、抽象的な物事や感情などについて、どれだけ鮮明に言語化できているかを表す時に用いているようだ。
デジタル・ネイティブならではの的確な表現だなあと感心する。私もまねして使わせてもらっているが、平均年齢45・4歳(2021年4月現在)の本社内で耳にすることはめったにない。
22日に公示される参院選に向け、「投票率が低い」「新聞を読まない」若い人たちに、どうしたら選挙に関心を持ってもらえるような報道ができるのか、全国各地で取材に奔走する20~30代前半の若手記者と何度もオンライン会議を重ね、意見交換した。
選挙のたびに若い世代の投票率や政治への関心の低さが指摘されます。でも、政治やメディアは、その世代の実像を捉え切れているのでしょうか。若手記者が街頭や投票所で一人ひとりの声に耳を傾け、若い世代の解像度を上げていく参院選企画「Voice2022」を始めます。
選挙のたび、若者が責められる構図って……
若者が何を考えているのか聞き出したい。そして、「実像」を記事で伝えたい、と鼻息を荒くする私たち「非・若者」の記者やデスクに対し、若手記者たちは時折、首をかしげた。
「若者、若者っていうけど、学生もいれば社会人もいるし、『意識が高い人』からそうでない人までいろいろ。誰を想定しているのか」「選挙の話になると、投票率の低い若者を責める構図になるのが嫌」「ステレオタイプに押し込まないでほしい」
一言で言えば、これまで新聞が描いてきた「若者」の姿はきっと「解像度が低かった」のだろう。「投票に行かない若者」や「意識の高い一部の若者」などと分かりやすい物語にはめ込み、レトロゲームのような「ドット絵」を惰性で描き続けてきたのではないか。彼らを理解したつもりで、ネタとして消費してきたのではないか――。そして、それは若者だけでなく、「主婦」や「会社員」といった描き方にも通じる。長年続いてきた報じる側の怠慢は、ずっと前から見透かされていたのだと気づいた。
若者に対する「解像度」が高そうな大人といえば――。若者に特化したマーケティング研究機関「SHIBUYA109 lab.(ラボ)」所長の長田麻衣さん(31)に会いに行った。毎月約200人のZ世代(15~24歳)の若者に会って話を聞くという。
「デジタルネイティブは私よりずっと情報リテラシーが高いし、感じ取る情報量が違う。長く生きている方がすごいなんてことはない、と気づかされます」と長田さんは話す。
身近な誰かが勧めるモノを買う時代に
SNSが生活に溶け込んだこの世代は、広告がたくさん打たれるような多くの人向けのモノよりも、身近な誰かが勧めるモノを買う。買ったモノをSNSでシェアし、自分の消費行動が小さなコミュニティーの中でどう映るかを重視するという。「モノを売る側も、昔よりも丁寧に、きめ細かに勧めなければいけない時代です」
私が高校生の時に発売された世界初のカメラ付き携帯電話は11万画素だった。20年が経ち、iPhoneの最新機種の画素数は100倍以上になった。
まるで実物のように鮮明なデジタル画像に囲まれ、あふれる情報の中から自分に必要なものや好みのものを選び取れるのがあたりまえの時代に育った人たちに、「解像度の低い」言葉や記事はもう通用しない。
では今回、何を取材し、何を伝えていこうか。あれこれ話し合ううち、「一人ひとりの話をじっくり聞こう」「たくさんの人たちの思いをまとめず、一つひとつのものとして向き合おう」という若手記者たちの思いが見えてきた。
あなたが最近思わずクリックしてしまうニュースはなんですか。その問題に寄せる関心は投票に反映できそうですか。「どうせ社会は変わらない」というあきらめの気持ちはどこから来たのですか。一票では社会は変わらないのになぜあなたはわざわざ投票に来たんですか――。
若手記者たちはこれから街に出て、人に会い、彼ら自身がいちばん聞きたいことを聞きに行く。