高野豆腐で作った大阪城 元調理師が磨いた「裏技」、コロナ禍に復活

甲斐俊作

 料亭やホテルで長年活躍した元調理師の男性が、高野豆腐で新たな一品を完成させた。それは大阪城。いったい、なぜ?

 男性は京都府城陽市の下白石(しもしらいし)一男さん(74)。奈良県橿原市のホテルで料理長を20年勤め上げ、60歳で引退。それからは友人らと陶芸やゴルフをして過ごしてきた。

 そんな充実したシニア生活は、コロナ禍で一変した。仲間と集まって何かをすることは困難に。そこで思い出したのが、調理師時代に磨いた「裏技」こと、食材アートの腕前だった。

 私鉄系の料亭やホテルで長年、和食の料理人を務めてきた下白石さんは、20代の修業時代、料理のかたわらで食材アートづくりにはまりこんでいた。

 きっかけは先輩の調理師。乾燥状態の高野豆腐を使って干支(えと)の置物を作るのが趣味の人で、下白石さんも見よう見まねで始めたのだ。「高野豆腐は意外と加工しやすいんです。色んなものを作りました」

 下白石さんによると、料理人の世界では食材を使ったアート作品の展示会も開かれているという。

 下白石さんは、趣味に終わらせず、仕事にも生かしてきた。奈良のホテル時代には、毎年の皇室の歌会始のお題に合わせ、ホテルのロビーに東大寺二月堂や薬師寺などの食材アート作品を作って展示。客の舌だけでなく、目も楽しませてきたという。

 そして昨年。下白石さんは一人、高野豆腐のアート作りを再び始めた。

 まずは、金閣寺。ナイフやかんなを駆使して、高野豆腐を細かなパーツにしていき、組み立てていく。三つ制作して、うち二つは友人に贈り、残り一つは自宅の玄関に飾った。

 妻の絹子さん(71)は「一生懸命に打ち込む姿を見ていると、私もうれしかった」と喜ぶ。

 若いころの熱意がよみがえったのか、制作意欲は止まらなかった。今年3月から取りかかったのが、最新作の大阪城だ。

 天守閣から作り始め、完成までに2カ月。高さ約40センチのそれは、居間に大事に飾られている。

 「昔は仕事の後で真夜中までやっていたが、今は1日2時間が限度や。食材を粗末にするのでなく、料理人の裏技を見てもらい、喜んでもらえたらうれしいんです」と下白石さん。作品はケースに入れてどこかで展示できたらと思っているという。(甲斐俊作)…

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