怖い水中毒 熱中症には警戒が必要、でも水の飲み過ぎにも注意を

内科医・酒井健司の医心電信

酒井健司
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 真夏だけではなく、体がまだ暑さになれていない梅雨から初夏にかけても熱中症に警戒が必要です。予防には水分補給が欠かせませんが、同時に塩分も摂取しましょう。状況にもよりますが、スポーツドリンクや塩分を含んだタブレットが摂取しやすいでしょう。高齢者は梅干しやみそ汁など、好みで選んでもらってもよいです。

 大量の汗をかいたのに、塩分を補給せず、水分だけを補給するのは危険です。汗にはナトリウムなどの塩分が含まれています。発汗でナトリウムが体から失われたのに補給しないままだと、体内のナトリウムが不足します。そこに大量の水分を摂取すると血液が希釈され、低ナトリウム血症に陥ります。

 体内に余分な水があると腎臓は尿として水分を排泄(はいせつ)します。低ナトリウム血症のときはできるだけ尿を薄めてナトリウムの喪失を減らそうとしますが、その能力には限界があり、どうしても尿中にナトリウムが失われます。つまり、水の飲み過ぎは、単に血液を希釈するだけではなく、尿への喪失によってナトリウム不足を悪化させます。

 過剰な水分摂取にともなって体内の塩分のバランスが著しく崩れた状態が「水中毒」です。水中毒の症状は吐き気・頭痛・倦怠(けんたい)感、重症では意識障害・けいれんなどで、死亡することもあります。典型的にはマラソンなどの長時間のスポーツにおいて水分を大量に摂取したときや、心因性多飲症という精神的な問題で水分を飲んでしまう病気で起きます。なお、一般的なスポーツドリンクは飲みやすくするために塩分濃度が薄いので、マラソンやトライアスロンといった長時間の激しい運動時にはスポーツドリンクを摂取していても水中毒が起きることがあります。

 最近のネットニュースで気になる記事がありました。ある有名芸能人がデトックスを目的に、3日間のプチ断食に加え、一日に10リットルを超える水を飲むというというのです。記事から判断する限りでは、大量の水を飲むだけではなく断食によって塩分摂取は減るのですから、水中毒が起きる危険性が高いように思えます。専門家に相談しているとのことですが、標準的な医療を行っているまともな医師で、そのような危険が伴う行為を勧める人はいません。民間療法の類いだと思います。

 プチ断食は無事に終わったようですが、今回は何事もなかったとしても次も大丈夫とは限りません。きつい自覚症状が出たら中止するでしょうから、何かあったとしてもひどいことにはならないだろうとはいえ、リスクを伴う行為です。安易にまねをする人が出ないよう、記事にして報道するときには、別の専門家にも取材して、標準的な医学知識に基づいたコメントも載せるなどの配慮があったほうがよいのではないかと考えます。(酒井健司)

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酒井健司
酒井健司(さかい・けんじ)内科医
1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。