1シーズン百万円購入の顧客百人 金沢の洋服店主、27歳の逆転人生

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編集委員・後藤洋平
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 「すごい勢いのあるセレクトショップが、北陸にある」。ふた月ほど前、ファッション業界の関係者から、そう聞かされた。個人経営で、地方都市に店を構えながら巨額の売り上げを誇るという。「1シーズンに100万円以上の買い物をしてくれるお客さんが100人以上いる」「店を構えるまで、北陸には住んだこともなかった」。これまでメディアの取材を受けたことがないという店主から、直接話を聞こうと、新幹線で北へ向かった。

 到着したのは金沢駅から車で約20分の場所。窓のない真っ白な壁に、ドアが3枚並ぶ無機質な店構えだった。よく見ないと分からないほど小さな文字で「ACRMTSM(アクロマティズム)」との店名が書かれている。兼六園や金沢21世紀美術館がある観光地からも、片町や近江町市場のある中心地からも遠かった。店に面する道路沿いにはマンションとコンビニ、焼き鳥店。脇道を一本入ると戸建てが並ぶ、完全な住宅街だ。

「ブランドと一緒に成長したい」

 約300平方メートルの店内は写真館を改装したスペースで、所狭しと服が並ぶ。2018年にスタートしたブランド「ヨーク」や、同年に本格始動した「ダイリク」、16年に創業した「シュタイン」……。多くが日本を拠点にする新興ブランドだ。店主の大槻優士さん(27)は、「17年に自分の店を開いたんです。同じ時期に始まったブランドが多いのは、一緒に成長できる気がするから。元々有名なブランドばかりを扱うより、僕らが協力して有名にしたい」と明かす。海外ものについてはパリやミラノで発表しているブランドはなく、「国内ではウチだけとか、数店舗でしか取り扱っていないところばかりです」。

 大槻さんは東京都八王子市生まれ。小学生のころ、母親の再婚で長野に引っ越した。しかし、中学1年で不登校になった。ただ、仲良くなって、色んなところに連れて行ってくれた継父が、ユナイテッドアローズ(UA)の軽井沢店で買い物をする姿を見て、「映画のシーンみたいで格好いいな」と感じたことが忘れられなかったという。

独立後、地縁のなかった金沢でセレクトショップを経営することを決意した大槻さん。最初の2年間は日雇いアルバイトと並行して食いつないだ。商品を「作品」と呼び、「僕たちは服ではなく明日を売る」と言うスタイルで、業界から注目される存在になった。後半では、その具体的な手法を明かします。

 高校には進学せず、コンビニ…

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    後藤洋平
    (朝日新聞編集委員=文化、ファッション)
    2022年6月10日8時49分 投稿
    【解説】

     筆者です。ファッション業界にも、ブランドと店をつなぐ「セールス」という役割の代理店が存在します。「すごい店があるぞ」と教えてくれたのは、セールスの会社の方々でした。  「初めての取引から、かなりの額の注文がある店があるんだけど、あのお店

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