「資産所得倍増の前にやるべきことがある」 岸田首相の政策ブレーン

有料記事岸田政権

聞き手・森岡航平 北川慧一
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 岸田文雄首相が掲げる経済政策「新しい資本主義」のビジョンと実行計画が6月上旬に閣議決定される見通しだ。首相のブレーンの一人とされる実業家の原丈人(じょうじ)氏は「公益資本主義」を唱え、その要素は新しい資本主義にも取り込まれているが、いまの政府の議論からは「分配」政策がみえないと指摘する。

 ――岸田首相が英国・ロンドンの金融街シティーで新しい資本主義の具体策として「資産所得倍増プラン」を打ち出しました。

 資産所得倍増計画はよいことですが、まずは多くの国民にとっては、株式などの資産に投資できるだけの蓄えをつくる必要があります。そのために総理がしたいことは、「令和の所得倍増」を実現し、国民一人一人を豊かにすることです。しかし、7カ月経っても「新しい資本主義実現会議」から具体的な提案が出てこないので待ち続けるわけにはいかず、成長戦略を打ち出しました。

 「人への投資」「科学技術・イノベーションへの投資」「スタートアップ投資」「グリーン、デジタルへの投資」の4項目です。しかし、成長産業を作っても、利益のほとんどを株主がとってしまう株主資本主義の時代が続けば、社員は豊かになれません。しかも、外国人株主が増えている現状から見ても、日本国民を豊かにする分配のルールを成長戦略と同時に決めることは緊急課題です。

 成長の結果、成果物が会社で働く人たちや、社会全体に還元するルールを作ることが新しい資本主義の骨格のはずです。

多くの国民は株を買っている余裕はない

 ――それでも首相は2千兆円ともいわれる個人の金融資産に着目し、「貯蓄から投資」へのシフトを大胆に進めると宣言しました。

 一般の人の多くは株を買っている余裕はないです。日本で株を持っている人は、11・2%(2020年度末)であり、その多くはある程度の資産を持っている層です。9割の国民にとっては株価の上がり下がりは、実生活と関係ありません。資産所得倍増の前にやるべきは、勤労所得の倍増を実現して、株を買う資産を形成できるようにすることです。

 この20年間で平均給与は約370万円(財務省の法人企業統計)で全く増えていない。それどころか、教育や住居費などは上がっているため、実質賃金は10%下がり、日本人は貧しくなっているのです。その一方で、上場企業の株主還元額は何倍にも増えており、分配の偏りが顕著です。

 ――どんな分配政策が必要なのでしょうか。

 利益をフェアに分配すること…

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